イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「いったいなにがあったのですか!」

セシルが自室のベッドで医者を待っていると、そこへフェリクスとシャンテルが飛び込んできた。
フェリクスはセシルの土で汚れたドレスと、ベッドの上に投げ出された右足を見て呆然とする。

「セシル様、大丈夫ですか! 今、医者を呼びに行かせましたが、到着までもうしばらくかかるかと」

「大丈夫。少し足を捻っただけだから」

「ですが……襲われたというのはいったい……」

困惑するフェリクスに、ベッドの脇に立っていたルシウスが冷静に答えた。

「庭園にいたところ、何者かが矢を放ってきたのです」

「……まさかそんな……敷地内で命を狙われるだなんて」

フェリクスは血の気の引いた顔でルシウスに深く頭を下げた。

「申し訳ございません。ルシウス様まで危険に晒してしまい――」

「そんなことはかまいません。それより、今ルーファスが現場を調べに行っているのですが――」

そこへ、ルーファスが戻ってきた。手には一本の矢を持っている。

「回収できた。矢じりには触るな。毒が塗ってあるかもしれない」

そう警告すると、その矢をフェリクスへと差し出した。

「この羽の部分の紋章に心当たりは?」

「……これは、ヴァイール伯爵の。ではやはり一連の騒動はヴァイール伯爵が」

「紋章つきの矢で暗殺する間抜けはいないだろう。まるで犯人に仕立て上げられているように感じるが」

「それもそうですね」

ルーファスの真っ当な指摘に、フェリクスは唸る。
< 61 / 146 >

この作品をシェア

pagetop