イジワル騎士団長の傲慢な求愛
ふたりのやり取りを傍観していたルシウスが口を開いた。

「今までも、狙われたことが?」

「先日、長男のアデル様が狙われましたが、そのときも奴等はヴァイール伯爵の紋章を持っていました。……今考えれば、それも我々への目眩ましだったのかもしれません」

「権力争いにしても、アデル様ならともかく、セシル様では説明がつかないな」

素直なルシウスの感想に、一同は黙り込む。この場でアデルの正体を知らないのは、ルシウスだけだ。

宮廷で襲ってきた悪徒の口ぶりからすると、アデルの正体について情報を得た何者かが確証を探しているという様子だった。
アデルとセシルが同一人物であると掴んでいるならば、セシルが襲われても不思議ではない。

「それに、腑に落ちないのは、なぜこのタイミングだったかということです。命を狙うならばひとりきりのときを狙えばいい。あえて我々がいるときを狙って襲ってきた意図とは……」

顎に手を添え考え込むルシウス、横でフェリクスが苦い表情で嘆息した。

「これでもしルーファス様やルシウス様が我々の領地内で怪我を負ったとあれば、外交問題に発展しかねませんね」

「それを狙っていると? 敵は私たちの仲を険悪にさせたいのでしょうか」

敵の目論みに見当がつかない。暗礁に乗り上げたところに、ルーファスがひとつ推理を披露する。

「敵はこの婚約自体を快く思っていないのかもしれない。継ぎ目争い、あるいは近隣の領主がこの領地の利権を狙っているとするならば、これ以上後継者候補を増やされるのはおもしろくないはずだ」

「確かに。もし私や兄の身になにかあれば――」

「普通であれば婚約は破棄だろう」
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