イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「……私がお会いしていたのは、やはりルシウス様だったのですね」

「書状にも記したでしょう。貴方と初めてここで出会って、恋に落ちたと」

曲が止み、ふたりは一歩引いて一礼する。

セシルの手を取ったルシウスが向かった先は、この会場の出口だった。

「外へ出ませんか」

セシルはてっきり、あの日のように庭園へ行くものだと思っていた。
しかし、ルシウスに肩を抱かれ、歩んだ先は庭園に面した回廊のさらに奥。

「……どこへ行くんですか?」

「ふたりきりになれるところですよ」

天井の高い広間の脇には、客間の扉がいくつも並んでいて、舞踏会の夜は自由に休みを取れるように解放されていた。
――本当は休みなどとは口実で、意気投合した男女が、一夜の過ちを犯すために用意された個室なのだけれど。

鍵のかかっていない一室へ、ルシウスはセシルを招き入れる。

その意味を知っていたセシルは、足が固まり動けなくなってしまった。
入ろうとしないセシルに向かって、ルシウスがにっこりと微笑む。

「――お話をしましょう。私のこと、あなたのこと。いずれ夫婦となるのですから」

仮面の奥の悪意の感じられない笑顔に、セシルは自分に大丈夫だと言い聞かせて頷く。
< 89 / 146 >

この作品をシェア

pagetop