イジワル騎士団長の傲慢な求愛
2 お嬢様の秘めごと
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「ご用意は整いましたか?」

部屋の外から急いたフェリクスの声が響いてくる。
もうそんな時間――セシルは侍女に背中を任せ、編み上げられたドレスの紐を解いた。

「待って。もう少し」

重苦しいコルセットを脱ぎ捨てると、一瞬だけ体が自由になり、息がしやすくなった。
しかし、この締めつけを上回る苦行がこれから先待っているのだと思うと、気が重くなる。

裸になったセシルは、再び侍女に背中を向ける。
侍女は歯を食いしばりながら、これでもかというくらい力を込めてセシルの胸に包帯を巻く。

いつも以上に強く胸を締め付けられて、思わずむせてしまった。
やけに気合いが入っているなぁなんて首を傾げるセシルだったが、今日が特別な日であることを思い当たって納得した。

包帯の上から上質な絹の上衣を羽織り、落ち着いたバーガンディの色合いの生地に精緻な金糸の刺繍が施されたベストとコートを重ねた。
腰にはローズベリー家当主が代々受け継いできた長剣。
胸の下まである黒髪はキュッとうしろで結ばれて、ふんわりしたボリュームが出てしまわないように髪と同じ色の紐でグルグル巻きにされている。

「お待たせ」

「失礼致します」

扉を開けたフェリクスは、モスグリーンを基調とした控えめな色の貴族服に、一枚布で作られた外套を羽織っていた。
右目には片眼鏡。
知的な雰囲気を身に纏った彼は、数日前の仮面舞踏会の晩とは打って変わって、恭しく頭を下げた。

「『アデル』様、外に馬車を待たせております」

その名で呼ばれると、無意識に背筋がしゃんと伸びる。
このローズベリー家次期当主として、恥じない行いをしなければと、身が引き締まる。
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