ブザービーターは君のため
「大悟先生。
 トイレ行くのがままならないって方向音痴だからだってちゃんと言ってってよ!」

「あぁ。ごめんごめん。」

 大悟の奴、分かってやってるくせに。

「男子トイレの前まで連れてったのに出てこれなくなって、男子トイレの中まで迎えに行ったんだから。」

「ハハッ。
 よく中で迷ってるって分かったね。」

「だっていくら待っても出てこなくて中から「おい。チビ。ここはどこだ。」って意味不明な声が聞こえたから。」

 チビの話を最後まで聞くか聞かないかで大笑いした大悟の声が体育館中に響いた。

 ここは体育館。

 大悟に連れられて放課後の時間に体育館へ来たところをチビにぶつかって倒れたのだ。

 バスケの顧問をやるために体育館を見に来ていた。
 顧問というより外部から来た監督ということになるだろう。

「いい体育館だろ。」

「いいか悪いかなんてあるの?」

 大悟と一緒に戻って来た奴が質問した。
 えっと名前はなんだったか。

「柚羽は部活バスケやるの?」

「まさかぁ。私は無理だよ。」

 確かにチビと呼んでいる奴よりも小さくて女の子を絵に描いたような奴だった。
 ふわっとした長い髪を2つに結んでいて、スポーツやる感じじゃない。

「千尋ちゃんはどう?
 背が高くて向いてそうだよ。」

「チビが?」

 思わず意見した口を噤んだ。
 嬉しそうな顔の大悟が目に入ったからだ。

 俺が話すのがそんなに珍しいかよ。

 そう言えば大悟に言われたことがある。
「物言わぬ貝の方がよっぽど喋るぞ。」って。

 知らねぇよ。貝って喋るのかよ。

「さっきからやめてよね。
 私、急に伸びた背がコンプレックスなんだから。」

 そう言われ、よく見れば確かに大悟と並んだ肩はそれほどの差はなかった。

 それでも………。

「チビはチビだ。」

 再び言った言葉は大悟を楽しませるのには十分だったようだった。




< 4 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop