再会の街
 電話は切れた。

 ぶつかった時、相手の顔は見なかったけれど、こうして声を聞くと、とても優しそうな人のような気がする。


(そう、あの人みたいに)


 不意に思い出してしまう。

 高校1年の時に恋をしていたあの人のことを。

 転校する前に思いを告げて、振られてしまった。

 あのあと、一度だけ電話を掛けた。

 変わらないままの声に、動揺した自分がいた。

 その後は電話を掛けていない。

 だから、今は何処で何をしているのかもわからない。


(馬鹿!)


 何を思い出しているのだろう。

 今は自分には、そばにいてくれる人がいる。

 それでもきっと、忘れられない。

 手帳に書かれたままのあの人の番号。

 今の彼には絶対に見せられない。


(ごめん)


 ポツリと心の中で呟いた。
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