初恋マニュアル
消しゴム
「――あっ!」
思わず上げた声に、みんなが私に注目する。
しまったと思った時はもう遅く、先生にギロリとにらまれてしまった。
「どうした?丸山」
ビクッと体を固まらせて、私は情けない顔で先生を見る。
「すみません……け、消しゴムを落としてしまって……」
仕方なくおずおずとそう答えると、先生は一瞬眉間にしわを寄せた。
「替えのはないのか?」
そう聞かれて、しまったと思う。
この間愛里に付き合ってもらって買ったばかりの消しゴムは、まだ新品のまま自分の部屋の机の引き出しの中だ。
「はぃ……」
よりによってなぜこういう日に持ってこなかったのかと、自分を呪う。
今はテストの真っ最中。試験監督の先生は怖いので有名な数学の男の先生だ。
注目されて当たり前のこの状況で、先生のため息がやけに耳に残る。
「どこら辺に落としたんだ?」
探してくれるつもりなのか、そう言ってキョロキョロとあたりを見回している。