初恋マニュアル
もう一人の子も、それをあと押しするようにそう言ってくる。


本当はうれしいはずなのに、なぜか私は素直に受け取れなかった。


もしかしたら、もうみんな好きな浴衣を決めていて、私にはこれって思ってたんじゃないか?とか、疑う気持ちがふくれあがる。



「私も、美羽にはこれが一番似合うと思うけど……美羽は?ほかに気になるのとかあるの?」



愛里にまでそう言われてどうしようかと迷った。


自分も気にいってるくせに、みんなの思いどおりになるのがくやしくて、つい本音と違うことを言ってしまう。



「わ、私はこの緑のがいいなっ!」



一瞬、場の空気がこおったような気がした。



――バカ!なに言ってんの?私!



たぶん、そんなに時間はたってなかったのかもしれない。


だけど、次にだれかが口を開くまで、すごく長いちんもくのように感じた。



「あ……そう?じゃあ、美羽は緑のでいい?」



愛里にそう念を押されてものすごく後悔した。


本当はピンクが着たかったなんて、いまさら言えない。
< 123 / 392 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop