初恋マニュアル
「わかった……自信ないけど……がんばる」
それを聞いた愛里はうれしそうに私の頭をなでる。
「よし、じゃあ次の休み時間ね?」
次の休み時間。
私は愛里と一緒に、シャーペンの彼の席にうしろからおそるおそる近づいた。
「あ……の、三浦くん?」
そして、愛里にせかされてようやく出た第一声がこれだ。
三浦くんは呼ばれたことに気づいてくるりと振り返り、私と愛里を見つけると不思議そうな顔で私たちを交互に見比べた。
それからどちらが声の主なのかわかったのか、私の顔の前で視線を止める。
「なに?」
彼の口から声が出たことで、空想から現実へと引き戻されたような感覚になる。
今、彼は目の前にいて、私を見てる。
初めてちゃんと見る彼の顔。
長めの前髪からのぞく少し切れ長の目とシャープなあごは、ほかの男子より大人っぽく見える。
細身だけどしっかりとした肩幅は、スポーツをしているせいかもしれない。
「え……と、あの……さっきは……ありがとう」
ドキドキする心臓をおさえながら、勇気をふりしぼって、なんとかそう言った。
顔なんかまともに見れなくて、おじぎするふりをして下を向く。