初恋マニュアル
今ここはあのカフェで、三浦くんのお姉さんの家にいたんだと思い出す。



「……はぃ」



ようやく出た言葉は、うまく声にならなくて、少しかすれれた小さなものになってしまった。



「孝弘くん、きっと本当はあなたのこと好きなんだと思う。あの日、店に二人で来てくれたとき、あの子そんな顔してたもの。でもね?自分が幸せになっちゃいけないって思ってるんだと思う。私から俊弘をうばっといて、自分だけ幸せになんかなっちゃダメだって……」



悲しそうな辛そうな、そんな顔で早苗さんは目をふせる。



「孝弘くんは、俊弘を……お兄ちゃんをものすごくしたってた。でも19歳で結婚して家を出たとき、あの子はまだ小学生だった……急にお母さんと二人で暮らすことになって、寂しかったんだと思う。だから、あんなに悪さばっかりしてたんじゃないかって、今は思うの」



早苗さんは、早苗さんなりに三浦くんを心配してて、彼に幸せになってほしいって思ってる。


だけど三浦くんは三浦くんで、早苗さんにつぐなってるんだと思った。


お互いを思いやってるのに、すれちがってるような、そんな気がして悲しかった。


両方の気持ちがわかるから……


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