初恋マニュアル
そこにいるのは、知り合ったころの、暗い過去なんか知らなかったころの、三浦くんに見えた。


早苗さんの話が実は夢だったんじゃないかと思わせるくらい普通に、三浦くんはやさしく私に笑いかけてくれる。


だから、このまま元にもどれるかもしれないって、告白する前の関係にまたなれるのかもしれないって、思ってしまった。



「丸山が変わったのって、やっぱり羽生のせいなんじゃない?」



さっきのやさしいトーンのままで、静かに笑う三浦くんは、もう私に触れようとはしない。



「こないだ言ったこと……気にしなくていいから。丸山がそのせいで羽生にいけないんだとしたら、悪いことしちゃったなってずっと思ってたんだ」



ごめんね?って言いながら、三浦くんは私の目をまっすぐに見た。


クモの巣にひっかかってしまったちょうちょみたいに体が固まったまま動かない。


涙も言葉もなにも出てこなくて、ただぼうぜんとビー玉みたいな目を見つめていた。



「そんな顔しないで?俺と丸山の関係は変わらないんだし。今までもこれからも。さっき、丸山も言ってくれたけど、俺も大切な友達だと思ってるから」


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