初恋マニュアル
それから借り物競争が定員オーバーになったことをほかの生徒に大きな声で伝えてる。


ホッとして横を見ると、さっきまでいたはずの三浦くんの姿が見えない。


振り返ってみると、彼はもう自分の席についていた。



――あ……れ?もしかして、私のために出てきてくれた……とか?



よく考えてみれば、三浦くんは陸上部なわけで、リレーと100m走に出ることがすでに決まってる。


それなのにあの場所にいたなんて、あきらかにおかしい。


首をかしげながら自分の席に戻ろうとしたとき、ちらりと通り過ぎざまに三浦くんの方を見ると、向こうもこっちを見ていておもいっきり目があった。


ドキッとしながらも、さっきのお礼をかねて首だけで小さくおじぎする。


三浦くんはそんな私にニコッと笑いかけながら、声を出さずに口パクで良かったねと言ってくれた。



――どうしよう、私もなにか返さなきゃ……



どぎまぎしながら私も口パクでありがとうと言ってみる。


そのままはずかしくなって自分の席へと急いだ。


直接、言葉を交わしたわけでもないのに、私と三浦くんだけの世界がそこにあって、胸がいっぱいになる。


それと同時にだれかに見られたんじゃないかと、あわてて周りをキョロキョロ見回した。
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