初恋マニュアル
やっぱりそう簡単には三浦くんの気持ちは変わらない。


それにそのくらい彼の中でお兄さんの存在が大きかったんだとわかる。


なのに私のせいでこれ以上悩ませるなんていやだった。


それにこんな風に人に強要されて自分の気持ちを曲げるなんてなんか変だ。



「あの!……あの、私……大丈夫だから……三浦くんのこと好きだけど……でもそれは私が勝手に好きなだけで……だから三浦くんは無理しなくていいから……みんなの気持ちはうれしいけどでも……もうじゅうぶん……ありがとう」




みんなの視線が私に集中する。


私は早苗さん、羽生くん、愛里へと視線を移して、最後に三浦くんのところで目を止めた。



「ごめんね?いやな思いさせちゃったよね?でもみんな私のためにやってくれたことだから……だからさっき私が言ったことも気にしないで?」



そう言って笑おうとしたけど、うまく笑えなかったことに気づいて三浦くんから目をそらした。



「えっと……ごめんなさい……私、帰るね?」



三浦くんの気持ちやみんなの気持ち、いろんなことを考えるといたたまれなくなる。


愛里の横をすり抜けてコートを羽織ると、もう一度ごめんなさいと小さく言って、私はそのまま店を出た。



「美羽!」



愛里の呼び止める声が聞こえる。


でも私はそれをふりきって走り出した。


今は一人にしてほしかった。


追いかけてくる気配を感じて、わざと帰り道とはちがう店のすぐ横の路地に曲がって身をかくす。


愛里と羽生くんが走り去っていくのを見つめながら、三浦くんは追いかけてきてくれなかったんだと、少しだけさみしくなった。
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