初恋マニュアル
もしかしたら、早苗さんが言ってくれたら三浦くんの気持ちも変わるんじゃないかって思ってたけど、そうじゃなかった。


三浦くんのさっきの顔を思い浮かべる。


困ったように言葉をにごす三浦くんに、あれ以上なんて言えばよかったんだろう。


みんなが私の恋を応援してくれても、当の本人にその気がなかったらなんの意味もない。


その場にしゃがみこんで、はぁぁっと手のひらに息をはいて温める。


耳や鼻の感覚がだんだんなくなっていくのを感じながら、やっぱりもう三浦くんのことはあきらめた方がいいのかな?と弱気になる自分にあきれた。


何度もあきらめようとしてできなかったくせに、私は全然こりてない。


ふとコートのポケットに入れていたスマホがふるえるのを感じて、あわてて取り出して画面を見た。


そこには愛里の名前が表示されていたけど、私はその画面を見つめたまま電話に出ることができなかった。


あきらめたように画面が暗くなって振動が止まる。


緊張していた体がフッとゆるんだ。


あらためて着信履歴を確認すると、ありえないほど並ぶ愛里と羽生くんの名前。



--心配させちゃったな……



スマホをにぎりしめながら、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


すぐにまたスマホがふるえて今度こそ出なくちゃと画面を見ると、そこに表示されていたのは愛里の名前じゃなくて、三浦くんのものだった。


ドキリと心臓が音を立てる。


名前を見ただけなのに思いがあふれた。


--やっぱり好きだ……あきらめるなんてできない


切ることも出ることもできずに、ただ画面を見つめていたときだった。



「……こんなとこにいたんだ」



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