初恋マニュアル
少し息を切らせてせっぱつまったような声が、頭の上からふってきた。


それは今一番会いたかった人の声。


高めの優しい大好きな人の声だ。


あわてて顔を上げるとやっぱりそこには三浦くんが立ってて……



「みんな心配してるよ?ほら、行こう?」



いつの間にかスマホの着信は消えていて、三浦くんがそのかすかな振動音をたよりに私を見つけてくれたんだとわかる。



差し出された手をつかむことができなくて、私はしゃがんだまま動けなかった。


やがてその手があきらめたようにおろされて、今度は私の目線に合わせるように三浦くんがスッと目の前にしゃがみこんだ。


ビー玉みたいな目が私の目をのぞきこむ。


少し困ったように笑う彼の顔があっという間にゆがんで見えた。



「ごめん……また泣かせちゃったね?」



そっと遠慮がちに伸ばされた手が私のほほをなぞる。


もう何度言われたかわからないセリフは、私が三浦くんを好きになってから泣いてばかりいるってことでもあって、自分がなさけなくなった。


あきらめようとしてあきらめられなくて、いろんな人に背中を押されてやっぱりがんばろうって思えたり、三浦くんの気持ちを考えたらやっぱりあきらめた方がいいのかもって思ったり。


だけど好きって気持ちはそう簡単にはコントロールできるものじゃなくて……



「ごめ……なさ……私のせいで……」



そうしゃくりあげながらあやまった瞬間、私の体は三浦くんの胸の中に閉じ込められていた。



「俺の方こそ……ごめん」



ギュッと抱きしめられて、なにがなんだかわからなくなる。
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