初恋マニュアル
「あ!美味しそう!早苗さんのココア大好き。美羽のせいでちょー寒かったからうれしいです」
ちろっとわたしの顔を見ながらいやみを言う愛里に、クスクス笑う早苗さん。
「そう?ありがと。あ、これも良かったらどうぞ」
お手製のクッキーを出されて、本気で嬉しそうにそれをつまむ愛里は、もうすっかりいつも通りで、さっきまでのはりつめた空気が和やかなものに変わった。
「つーか、須藤……食べすぎじゃね?さっきもすげーケーキ食べてたじゃん」
羽生くんが愛里のとなりであきれたようにククッと笑う。
「いーの!美羽のこと探し回ってカロリー消費したんだから!それにこの早苗さんのクッキーすごく美味しいから大好き。ほら羽生も食べてみ?」
2人が明るくふるまってくれるおかげで、なんだかさっきのクリスマス会の続きみたいなそんな気がしてくる。
三浦くんとさっき話してたことさえ夢なんじゃないかと思うほどに……
愛里も羽生くんも早苗さんさえ、私と三浦くんのことについてなにも触れてこない。
なんとなく察してくれているのかはわからないけど、それが今はありがたかった。
「さて、そろそろ帰らないと美羽ママにしかられちゃう」
さんざん食べたあとに、愛里がそう言って席を立つ。
「そうね?一応連絡はしておいたけど、心配するだろうからもう帰った方がいいわね?」
早苗さんもそう言って、カウンターの中から出てきた。
「羽生くんと孝弘くんは2人のこと責任もって送ってもらえる?そのあとは2人ともうちに泊まって行きなさいね?」
電車はまだ動いてるはずだけど、男の子とはいえこんな遅くにうろうろするのを心配したんだろう。
早苗さんはそう言って羽生くんに家に連絡するよううながした。