初恋マニュアル



「今日は本当にありがとうございました」



早苗さんにお礼を言って店を出る。


いろんなことがあって今日はすごく長い1日だったなと思い返した。


愛里と私が並んで歩くうしろから、羽生くんと三浦くんがついてくる。


たまにぼそぼそと話す声がうしろから聞こえて、なにを話してるのか気になった。



「ねぇ、美羽」



公園の前を通り過ぎようとしたとき、私の腕に自分の腕をからませながら、内緒話をするように愛里が私に顔を近づけてくる。



「なに?」



この先はなだらかな坂道になっていて、そこをくだってすぐの道を右に曲がって真っすぐ行けば私の家だ。



「もう、大丈夫なんだよね?」



その言葉の中にいろんな聞きたいことが全部詰まってるんだと思った。


もう、悩まなくていいんだよね?
もう、泣かなくていいんだよね?
もう、諦めなくていいんだよね?


そんな言葉が聞こえてくる気がして、胸がいっぱいになる。



「うん、もう大丈夫」



それだけ答えると、愛里はホッとしたように「そっかぁ、良かった」と言って、空を見上げた。


夜空には星がたくさん輝いていて、冬の空気のせいかすごくきれいに見える。



「あのね?」



愛里がまた私の耳元にくちびるを寄せて、めずらしく恥ずかしそうに言いよどんだ。



「ん?」



「前に言ってた、私の好きな人……」



そう言えばそんなことを言ってたなと思い出す。


私が悩んでることを話せば教えてくれるって言ったのに、教えてくれなかったときの話だ。



「美羽がもう大丈夫ってわかったから言うけど……」



「う、うん」



コクンとつばをのみこむ。


あのときも言ってた。


美羽に好きな人ができたら、言い合いっこしようねって。


ドキドキしながら愛里の言葉を待っていると、そのあとに衝撃が走った。
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