MAZE ~迷路~
「美波は、美波は何て?」
智はやっとの事で、敦に問い返した。
「智は何もわかってないって。絢子ちゃんが生きているって信じてくれないって。もう、一緒にいられないって。」
敦は、美波の言葉を要約して伝えた。
「結婚の事は何か言ってたか?」
智は目前に迫った現実として、敦に問いかけた。
「智とは、結婚しないって言ってた。」
敦は言いにくそうに言うと、智から目をそらした。
智にも、敦が冗談で言っているのではなく、美波が本当にそう口にしたのだと言うことがわかった。
「そうか。」
智は言うと、大きなため息をついた。
「智、まさか、本気で美波を諦めるのか?」
敦は再びつかみかかりそうになりながら言うと、智のことをじっと見つめた。
「考えさせてくれ。」
疲労困憊した智の頭では、何も現実的なことは考えられなかった。
事実上、『結婚のお断り』を受けたはずなのに、疲れすぎた智の神経には、新たな苦痛を伴う刺激としてしか感知されず、深く閉ざされた心は、悲しみを認識するのを激しく拒んでいた。
「お前、絶対に美波を幸せにするって約束したじゃないか!」
敦は言うと、目をあわせようとしない智の両肩を掴んだ。
「俺の問題じゃない。美波が、俺とじゃ幸せになれないって判断したんだ。」
智は言い返すと、敦の手を払いのけた。
「もう、放っておいてくれ。」
智は言うと、立ち上がって敦に背を向けた。
「お前、美波を愛してないのか?」
敦は追い討ちをかけるように、智の背に問いかけた。
「美波の問題なんだ。美波があのナンセンスを自分が作り出した妄想だって気付かない限り、美波自身、幸せになんてなれないんだよ。ずっと、死んだ親友の亡霊に取り付かれて、生きてる証拠を探そうと四苦八苦するばかりなんだよ。」
智は言ってしまってから、美波は敦にお寺での一件を話したのだろうかと訝った。
「お前がそう言うなら仕方ないけど。お互いに、頭を冷やして冷静になる必要があるんじゃないのか? 美波もずいぶん興奮してたし。お前も、俺が見た限り普通じゃない。本当に、こんな言い合いの喧嘩だけで、婚約を解消しちまって良いのか? お前にとって、美波はその程度の相手なのか? 俺だったら、死ぬまで美波のナンセンスに付き合ったって構わない。それが、本当に美波の望む事なら。」
敦は言うと、玄関の方に向かって歩き出した。
「お前だって・・・・・・。」
智はそこまで言って、慌てて言葉を飲み込んだ。『真っ暗な墓地に忍び込んで、墓を暴いた挙句、得たいの知れない男達に追いかけられ、死ぬような目に遭ったら・・・・・・』本当は、そう続けたかった智だが、その言葉は自分の胸の奥にしまいこんだ。
「俺だって何だ?」
敦は振り返って智に問いかけたが、智は無言で頭を横に振り、何も答えなかった。
「お前も、頭を冷やしたら、自分が直面してる破局がどんなものか実感がわくんじゃないか?」
敦はそれだけ言うと、静かに智の部屋から出て行った。
残された智は、再びソファーに腰をおろし、窓の外の夕闇を見つめ続けた。
☆☆☆
敦は家に帰らず、まっすぐに美波の家へ足を運んだ。
「美波、あれ以来出てこないのよ。」
有紀子は言うと、敦にお茶を煎れてくれた。
「美波、何か言ってましたか?」
敦は心配げに言うと、お湯飲みに口をつけた。
「智さんと喧嘩でもしたのかしら。智さん、電話で美波が一人で帰ったって言ってたけれど。」
有紀子の言葉に、敦は軽く頷いて見せた。
「たぶん、そんな事だと思います。智の奴も、なんだかいつもと様子が違って、すこしイライラしてるみたいだったし。」
敦は言いながら、いつもと様子の違う智のことを思い出した。
「まあ、結婚も近いし。いままで喧嘩しないほうが珍しかったのかもしれないですよ。」
敦の言葉に、有紀子は不安げな表情を見せた。
「美波の我が儘かしら。それとも、絢子ちゃんのことかしら。」
有紀子の言葉に、敦はすこし顔を引きつらせた。
「喧嘩の原因は、絢子ちゃんぽかったですよ。」
仕方なく敦が言うと、有紀子は小さくため息をついた。
「智さんに話すと、美波にも事件のことが伝わってしまうかもと、話をしないで置いたのは、よくなかったかもしれないわね。でも、智さんとは、普通の女の子として出会ったから、そのままにしておきたかったのに。」
有紀子が言うと、敦は頭を横に振った。
「美波は大丈夫ですよ。普通の可愛い女の子です。それは俺が保証します。ただ、智には、俺が事件のこと話しました。それで、絢子ちゃんが美波にとってどれほど大切な友達だったかとか。ちゃんと説明したつもりだったんですけどね。なんだか、変にプレッシャーかかっちゃったみたいで。」
敦は言うと、大きくため息をついた。
「敦ちゃんのせいじゃないわ。」
有紀子は言うと、寂しげな瞳をした。
「智さん、機嫌を直してくれると良いんだけど。」
有紀子が言うと、敦は笑って見せた。
「大丈夫ですよ。智の奴、美波に首っ丈なんですから。それに、智が降りるんなら、いつでも僕が立候補します。自慢じゃないけど、美波のことは、智なんかよりずっと分かってるつもりです。」
敦が言うと、有紀子は少しだけ笑って見せた。
☆☆☆
夜の帳に街が包まれても、智は気持ちの整理がつかずに外を眺めていた。
極度の精神疲労のせいか、突然スーパーマン並みに体を酷使したせいか、全身が軋むような疲労を感じていた。
(・・・・・・・・俺、どうしたら良いんだ? 美波のためと思って、あんなとこまで一緒に行って、挙句の果て、墓は暴くわ、骨壷を納骨室に戻すわ、死ぬような思いで逃げ出して。全部、美波に絢子さんの事をわからせる為だったはずなのに。なんで、こうなっちゃうんだ・・・・・・・・)
智は考えると、大きなため息をついた。
体は正直なもので、さすがに空腹を訴えていた。
(・・・・・・・・美波が絢子さんは生きていると信じて、これからもあんな非常識な事を続けるとしたら、俺は、ついて行かれない・・・・・・・・)
智は自分の出した結果に、戸惑いを隠せなかった。
(・・・・・・・・美波のいない人生なんて・・・・・・・・)
智は考えると、頭を横に振った。
「美波・・・・・・。」
智は声に出して美波の名を呼ぶと、とりあえず食事をする事にした。
本当は、すぐにでも美波と話し合いたいと思っている智だったが、さすがの智も、今の精神状態で美波と冷静に話し合える自信はなかった。
無意識のうちにカレーを温めると、智はご飯をお皿に盛り付けた。
その瞬間、出かける前の美波の姿が、脳裏に浮かび上がって消えた。
(・・・・・・・・美波。一緒にカレーを食べて、楽しく過ごせるはずだったのに・・・・・・・・)
そこまで考えてから、智はもう一度、冷静にあの晩起こったことを考えるべきだと思った。
「そうだ、メモ。」
智はカレーライスをテーブルに置いてから、あの時、美波と一緒に書いたメモを手にとった。
おじいさん:先代の医院長(死亡):古い卒塔婆に古い骨壺
お父さん:現在の医院長:お墓の場所を隠したがっている。警戒心が強い。
お兄さん:院長実子
ティンク:養女:真新しい骨壺、真新しい卒塔婆、骨壺はからっぽ
1. お寺への電話での問い合わせが、慎重に報告されていた。
2. 病院全体が異様なほど、取材を警戒している。
3. 問い合わせを受けて、卒塔婆や骨壺か用意された。
4. なぜ、お墓を暴いているのがばれたのか?
5. お寺も、この謎に加担しているのか?
6. あの松明をもったような一団は何者か?
7. 何を隠そうとしているのか? ティンクが生きている事
8. 本当に絢子さんは殺されたのか? 絶対に生きてる
9. 犯人は本当に自殺した交際相手なのか? ありえない
10. もし、生きているとしたら、絢子さんはとこに? 実家の病院
11. なぜ、生きているなら、美波に連絡しないのか? 監禁されているから
智はカレーを口に運びながら、再び考え始めた。
(・・・・・・・・確かにおかしい。お寺から病院に連絡が行ってるとしか思えない。それに、どうして納骨室を開けたのがわかったんだろう。すくなくとも、卒塔婆を見ている間は、先触れを感じなかった。美波が骨壷を取り出して、蓋を開けてから先触れを感じたんだ・・・・・・・・)
智は考えながら、すっかり美波の『先触れ』という言い回しに馴染んでしまった自分に苦笑した。付き合い始めた最初は、美波の口から飛び出す不思議な言葉が理解できず、良く聞き返していたが、いまではすっかり馴染んで、自分で考える時ですら、『先触れ』などという言葉を自然に使うようになっていた。
(・・・・・・・・そうすると、納骨室の中か、骨壷にセンサーが仕掛けられていたことになる。そうでないと、石をずらしたのを察知したにしては、男達が来るまでに時間がかかりすぎる。だとしたら、それを仕掛けた誰かは、俺たちが絢子さんの骨壷を開けると予測していたんだ・・・・・・・・)
考えていた智は、背中に冷たいものを感じた。
(・・・・・・・・美波があれで諦めるはずはない。もしかしたら、もう一度お寺に行ったりするかもしれない・・・・・・・・)
智は考えるだけで、居ても立ってもいられなくなってきた。
「何とかしなくちゃ。」
どう考えても、あの男達が墓を暴いた目的を聞いて、美波に危害を加えないとは思えなかった。
(・・・・・・・・もし、敦が話してくれた事件の詳細が事実なら、なんでそんなに墓を隠したりする必要があるんだ? 冷静に考えれば、遺体は見つからなかったんだから、骨壷に骨が入っている方がおかしいんだから、空である事を今更かくす必要もないし。それに、もし今まで遺体がないから骨壷をお墓に収めていなかったのだとしたら、なんで今更、骨壷を用意したり、わざわざ古い日付の卒塔婆を用意したりする必要があるんだ? 余計に怪しく見える。それに、あの院長、娘の事を放って置いてくれって言った。俺の事をマスコミの連中と間違えて。だとしたら、これだけ月日が経った今も、まだ事件の事を調べている人間がいるって事になる。一体誰が、何のために?・・・・・・・・)
智は考えれば考えるほど解らなくなり、思わずジャガイモを丸のまま飲み込んでしまった。
「・・・・・・・・。」
智は、喉につかえそうになるジャガイモを慌てて水で流し込んだ。
「もう一度、古い記事に目を通してみる必要がありそうだ。」
智は呟くと、残りのカレーライスを平らげた。
智はやっとの事で、敦に問い返した。
「智は何もわかってないって。絢子ちゃんが生きているって信じてくれないって。もう、一緒にいられないって。」
敦は、美波の言葉を要約して伝えた。
「結婚の事は何か言ってたか?」
智は目前に迫った現実として、敦に問いかけた。
「智とは、結婚しないって言ってた。」
敦は言いにくそうに言うと、智から目をそらした。
智にも、敦が冗談で言っているのではなく、美波が本当にそう口にしたのだと言うことがわかった。
「そうか。」
智は言うと、大きなため息をついた。
「智、まさか、本気で美波を諦めるのか?」
敦は再びつかみかかりそうになりながら言うと、智のことをじっと見つめた。
「考えさせてくれ。」
疲労困憊した智の頭では、何も現実的なことは考えられなかった。
事実上、『結婚のお断り』を受けたはずなのに、疲れすぎた智の神経には、新たな苦痛を伴う刺激としてしか感知されず、深く閉ざされた心は、悲しみを認識するのを激しく拒んでいた。
「お前、絶対に美波を幸せにするって約束したじゃないか!」
敦は言うと、目をあわせようとしない智の両肩を掴んだ。
「俺の問題じゃない。美波が、俺とじゃ幸せになれないって判断したんだ。」
智は言い返すと、敦の手を払いのけた。
「もう、放っておいてくれ。」
智は言うと、立ち上がって敦に背を向けた。
「お前、美波を愛してないのか?」
敦は追い討ちをかけるように、智の背に問いかけた。
「美波の問題なんだ。美波があのナンセンスを自分が作り出した妄想だって気付かない限り、美波自身、幸せになんてなれないんだよ。ずっと、死んだ親友の亡霊に取り付かれて、生きてる証拠を探そうと四苦八苦するばかりなんだよ。」
智は言ってしまってから、美波は敦にお寺での一件を話したのだろうかと訝った。
「お前がそう言うなら仕方ないけど。お互いに、頭を冷やして冷静になる必要があるんじゃないのか? 美波もずいぶん興奮してたし。お前も、俺が見た限り普通じゃない。本当に、こんな言い合いの喧嘩だけで、婚約を解消しちまって良いのか? お前にとって、美波はその程度の相手なのか? 俺だったら、死ぬまで美波のナンセンスに付き合ったって構わない。それが、本当に美波の望む事なら。」
敦は言うと、玄関の方に向かって歩き出した。
「お前だって・・・・・・。」
智はそこまで言って、慌てて言葉を飲み込んだ。『真っ暗な墓地に忍び込んで、墓を暴いた挙句、得たいの知れない男達に追いかけられ、死ぬような目に遭ったら・・・・・・』本当は、そう続けたかった智だが、その言葉は自分の胸の奥にしまいこんだ。
「俺だって何だ?」
敦は振り返って智に問いかけたが、智は無言で頭を横に振り、何も答えなかった。
「お前も、頭を冷やしたら、自分が直面してる破局がどんなものか実感がわくんじゃないか?」
敦はそれだけ言うと、静かに智の部屋から出て行った。
残された智は、再びソファーに腰をおろし、窓の外の夕闇を見つめ続けた。
☆☆☆
敦は家に帰らず、まっすぐに美波の家へ足を運んだ。
「美波、あれ以来出てこないのよ。」
有紀子は言うと、敦にお茶を煎れてくれた。
「美波、何か言ってましたか?」
敦は心配げに言うと、お湯飲みに口をつけた。
「智さんと喧嘩でもしたのかしら。智さん、電話で美波が一人で帰ったって言ってたけれど。」
有紀子の言葉に、敦は軽く頷いて見せた。
「たぶん、そんな事だと思います。智の奴も、なんだかいつもと様子が違って、すこしイライラしてるみたいだったし。」
敦は言いながら、いつもと様子の違う智のことを思い出した。
「まあ、結婚も近いし。いままで喧嘩しないほうが珍しかったのかもしれないですよ。」
敦の言葉に、有紀子は不安げな表情を見せた。
「美波の我が儘かしら。それとも、絢子ちゃんのことかしら。」
有紀子の言葉に、敦はすこし顔を引きつらせた。
「喧嘩の原因は、絢子ちゃんぽかったですよ。」
仕方なく敦が言うと、有紀子は小さくため息をついた。
「智さんに話すと、美波にも事件のことが伝わってしまうかもと、話をしないで置いたのは、よくなかったかもしれないわね。でも、智さんとは、普通の女の子として出会ったから、そのままにしておきたかったのに。」
有紀子が言うと、敦は頭を横に振った。
「美波は大丈夫ですよ。普通の可愛い女の子です。それは俺が保証します。ただ、智には、俺が事件のこと話しました。それで、絢子ちゃんが美波にとってどれほど大切な友達だったかとか。ちゃんと説明したつもりだったんですけどね。なんだか、変にプレッシャーかかっちゃったみたいで。」
敦は言うと、大きくため息をついた。
「敦ちゃんのせいじゃないわ。」
有紀子は言うと、寂しげな瞳をした。
「智さん、機嫌を直してくれると良いんだけど。」
有紀子が言うと、敦は笑って見せた。
「大丈夫ですよ。智の奴、美波に首っ丈なんですから。それに、智が降りるんなら、いつでも僕が立候補します。自慢じゃないけど、美波のことは、智なんかよりずっと分かってるつもりです。」
敦が言うと、有紀子は少しだけ笑って見せた。
☆☆☆
夜の帳に街が包まれても、智は気持ちの整理がつかずに外を眺めていた。
極度の精神疲労のせいか、突然スーパーマン並みに体を酷使したせいか、全身が軋むような疲労を感じていた。
(・・・・・・・・俺、どうしたら良いんだ? 美波のためと思って、あんなとこまで一緒に行って、挙句の果て、墓は暴くわ、骨壷を納骨室に戻すわ、死ぬような思いで逃げ出して。全部、美波に絢子さんの事をわからせる為だったはずなのに。なんで、こうなっちゃうんだ・・・・・・・・)
智は考えると、大きなため息をついた。
体は正直なもので、さすがに空腹を訴えていた。
(・・・・・・・・美波が絢子さんは生きていると信じて、これからもあんな非常識な事を続けるとしたら、俺は、ついて行かれない・・・・・・・・)
智は自分の出した結果に、戸惑いを隠せなかった。
(・・・・・・・・美波のいない人生なんて・・・・・・・・)
智は考えると、頭を横に振った。
「美波・・・・・・。」
智は声に出して美波の名を呼ぶと、とりあえず食事をする事にした。
本当は、すぐにでも美波と話し合いたいと思っている智だったが、さすがの智も、今の精神状態で美波と冷静に話し合える自信はなかった。
無意識のうちにカレーを温めると、智はご飯をお皿に盛り付けた。
その瞬間、出かける前の美波の姿が、脳裏に浮かび上がって消えた。
(・・・・・・・・美波。一緒にカレーを食べて、楽しく過ごせるはずだったのに・・・・・・・・)
そこまで考えてから、智はもう一度、冷静にあの晩起こったことを考えるべきだと思った。
「そうだ、メモ。」
智はカレーライスをテーブルに置いてから、あの時、美波と一緒に書いたメモを手にとった。
おじいさん:先代の医院長(死亡):古い卒塔婆に古い骨壺
お父さん:現在の医院長:お墓の場所を隠したがっている。警戒心が強い。
お兄さん:院長実子
ティンク:養女:真新しい骨壺、真新しい卒塔婆、骨壺はからっぽ
1. お寺への電話での問い合わせが、慎重に報告されていた。
2. 病院全体が異様なほど、取材を警戒している。
3. 問い合わせを受けて、卒塔婆や骨壺か用意された。
4. なぜ、お墓を暴いているのがばれたのか?
5. お寺も、この謎に加担しているのか?
6. あの松明をもったような一団は何者か?
7. 何を隠そうとしているのか? ティンクが生きている事
8. 本当に絢子さんは殺されたのか? 絶対に生きてる
9. 犯人は本当に自殺した交際相手なのか? ありえない
10. もし、生きているとしたら、絢子さんはとこに? 実家の病院
11. なぜ、生きているなら、美波に連絡しないのか? 監禁されているから
智はカレーを口に運びながら、再び考え始めた。
(・・・・・・・・確かにおかしい。お寺から病院に連絡が行ってるとしか思えない。それに、どうして納骨室を開けたのがわかったんだろう。すくなくとも、卒塔婆を見ている間は、先触れを感じなかった。美波が骨壷を取り出して、蓋を開けてから先触れを感じたんだ・・・・・・・・)
智は考えながら、すっかり美波の『先触れ』という言い回しに馴染んでしまった自分に苦笑した。付き合い始めた最初は、美波の口から飛び出す不思議な言葉が理解できず、良く聞き返していたが、いまではすっかり馴染んで、自分で考える時ですら、『先触れ』などという言葉を自然に使うようになっていた。
(・・・・・・・・そうすると、納骨室の中か、骨壷にセンサーが仕掛けられていたことになる。そうでないと、石をずらしたのを察知したにしては、男達が来るまでに時間がかかりすぎる。だとしたら、それを仕掛けた誰かは、俺たちが絢子さんの骨壷を開けると予測していたんだ・・・・・・・・)
考えていた智は、背中に冷たいものを感じた。
(・・・・・・・・美波があれで諦めるはずはない。もしかしたら、もう一度お寺に行ったりするかもしれない・・・・・・・・)
智は考えるだけで、居ても立ってもいられなくなってきた。
「何とかしなくちゃ。」
どう考えても、あの男達が墓を暴いた目的を聞いて、美波に危害を加えないとは思えなかった。
(・・・・・・・・もし、敦が話してくれた事件の詳細が事実なら、なんでそんなに墓を隠したりする必要があるんだ? 冷静に考えれば、遺体は見つからなかったんだから、骨壷に骨が入っている方がおかしいんだから、空である事を今更かくす必要もないし。それに、もし今まで遺体がないから骨壷をお墓に収めていなかったのだとしたら、なんで今更、骨壷を用意したり、わざわざ古い日付の卒塔婆を用意したりする必要があるんだ? 余計に怪しく見える。それに、あの院長、娘の事を放って置いてくれって言った。俺の事をマスコミの連中と間違えて。だとしたら、これだけ月日が経った今も、まだ事件の事を調べている人間がいるって事になる。一体誰が、何のために?・・・・・・・・)
智は考えれば考えるほど解らなくなり、思わずジャガイモを丸のまま飲み込んでしまった。
「・・・・・・・・。」
智は、喉につかえそうになるジャガイモを慌てて水で流し込んだ。
「もう一度、古い記事に目を通してみる必要がありそうだ。」
智は呟くと、残りのカレーライスを平らげた。