MAZE ~迷路~
目を覚ました絢子は、見覚えのない天井に、何度も瞬きをして自分が起きている事を確認した。
(・・・・・・・・ここは、どこ?・・・・・・・・)
起き上がろうとした絢子は、右の手首の痛みに、思わず眉をひそめた。
(・・・・・・・・痛い・・・・・・・・)
右手の手首には、真新しい包帯が巻いてあった。
(・・・・・・・・なんで?・・・・・・・・)
まったく状況のつかめない絢子は、ゆっくりと起き上がった。
部屋の中は、典型的な病室といった造りだった。
(・・・・・・・・ここ、家の病院じゃない・・・・・・・・)
病室のレイアウトを見た絢子は、そう思いながらベッドから降りた。
久しぶりに立って見る世界は、なんだかとても不思議なものに感じた。
「美波?」
美波の名前を呼んだ瞬間、絢子は美波の声に慌てて辺りを見回した。
「美波、ここにいるの?」
呼びかけながら部屋の中を見回した絢子は、部屋の隅の洗面台の前で立ち止まった。
「・・・・・・美波。」
鏡に映っているのは、紛れもない、美波の顔だった。
(・・・・・・・・なんで? 美波、私、・・・・・・美波を殺してしまったんだ・・・・・・・・)
絢子は恐れと恐怖の中で、右手首の包帯を引きちぎるようにして剥ぎ取った。
手首には、栗栖が美波をベッドの手すりに手錠で括ったせいでできたと思われる、リング状の切り傷から血が出ていた。
(・・・・・・・・間違いない、美波の体だ・・・・・・・・)
左手首のほくろを見つけた絢子は、そのばに崩れるようにしてしゃがみこんだ。
(・・・・・・・・私が死ぬはずだったのに、美波を殺してしまったんだ・・・・・・・・)
両目から涙が溢れ出したが、声はまったく出なかった。
(・・・・・・・・美波、美波。どうしたら? 美波を殺してしまうなんて・・・・・・・・)
絢子は考えながら、そのまま意識を失った。
☆☆☆
警察から連絡が入ったのは、午後になってからの事だった。
事故の調査が遅々として進まないせいもあり、警察も美波の処遇に困っているような雰囲気だった。
「じゃあ、警察病院の方に?」
有紀子は復唱すると、すぐ近くに控えている美夜子の目を見つめた。
『お母様は、なぜお嬢さんが事故現場付近にいたのかご存知ですか?』
「親友を探していると言っていました。」
仕方なく有紀子は答えると、相手の出方を待った。
『親友というのは、亡くなられた近江政(かず)臣(おみ)氏の長女、絢子(あやこ)さんのことですね? もう、十年前に亡くなられた。』
馬鹿な事を言うなと言いたげな刑事の言葉には、なぜか釈然としない響きがあった。
「はい、そうです。ですが遺体は見つからず、容疑者は公判が始まってすぐに自殺。娘は、絢子さんは生きていると信じていました。この件に関しましては、フリーライターの栗栖(くりす)万年(たかとし)という方から情報を戴いて、最近はその方に同行して捜索していたようです。」
有紀子が言うと、刑事はメモを取っているようで、次の質問までにしばらくの間があった。
『わかりました。今のところ、重要参考人として、お話を伺わせていただきたいと思っておりますが、問題がありまして・・・・・・。』
刑事はそこまで言うと、口ごもった。
「美波、怪我をしているんですか?」
有紀子は無意識のうちに、受話器を握り締めた。
『事故現場で発見された割には軽症ですが、事故のショックでしょうか、まったく口をきかれないんですよ。そういった症状は、以前にありましたか?』
「いいえ、ありません。」
有紀子は言うと、その場にぺたりと座り込んだ。
『担当医師の方から、ご家族の方々に面会された方が、ショックから開放され易いのではないかと連絡がありましたので、ご面会にいらしてかまいません。』
刑事は言うと、有紀子に病院の連絡先と場所を教えてくれた。
「ありがとうございました。」
有紀子は言うと、電話をきった。
「とにかく、すぐに逢いに行って見ましょう。」
電話の一部始終を有紀子の心から読み取っていた美夜子は言うと、敦に車を出すよう目で合図した。
「すぐ来る。」
敦は言うと、駆け出していった。
「美波の様子は?」
智は、控えめに問いかけた。
「怪我はたいしたことないらしいの。でも、何も話をしないそうよ。」
有紀子は言うと、俯いた。
敦は、車を玄関前に止めると、エンジンをかけたまま三人を呼びに玄関まで入ってきた。三人は、急いで戸締りをすると、敦の車に乗り込んだ。
(・・・・・・・・ここは、どこ?・・・・・・・・)
起き上がろうとした絢子は、右の手首の痛みに、思わず眉をひそめた。
(・・・・・・・・痛い・・・・・・・・)
右手の手首には、真新しい包帯が巻いてあった。
(・・・・・・・・なんで?・・・・・・・・)
まったく状況のつかめない絢子は、ゆっくりと起き上がった。
部屋の中は、典型的な病室といった造りだった。
(・・・・・・・・ここ、家の病院じゃない・・・・・・・・)
病室のレイアウトを見た絢子は、そう思いながらベッドから降りた。
久しぶりに立って見る世界は、なんだかとても不思議なものに感じた。
「美波?」
美波の名前を呼んだ瞬間、絢子は美波の声に慌てて辺りを見回した。
「美波、ここにいるの?」
呼びかけながら部屋の中を見回した絢子は、部屋の隅の洗面台の前で立ち止まった。
「・・・・・・美波。」
鏡に映っているのは、紛れもない、美波の顔だった。
(・・・・・・・・なんで? 美波、私、・・・・・・美波を殺してしまったんだ・・・・・・・・)
絢子は恐れと恐怖の中で、右手首の包帯を引きちぎるようにして剥ぎ取った。
手首には、栗栖が美波をベッドの手すりに手錠で括ったせいでできたと思われる、リング状の切り傷から血が出ていた。
(・・・・・・・・間違いない、美波の体だ・・・・・・・・)
左手首のほくろを見つけた絢子は、そのばに崩れるようにしてしゃがみこんだ。
(・・・・・・・・私が死ぬはずだったのに、美波を殺してしまったんだ・・・・・・・・)
両目から涙が溢れ出したが、声はまったく出なかった。
(・・・・・・・・美波、美波。どうしたら? 美波を殺してしまうなんて・・・・・・・・)
絢子は考えながら、そのまま意識を失った。
☆☆☆
警察から連絡が入ったのは、午後になってからの事だった。
事故の調査が遅々として進まないせいもあり、警察も美波の処遇に困っているような雰囲気だった。
「じゃあ、警察病院の方に?」
有紀子は復唱すると、すぐ近くに控えている美夜子の目を見つめた。
『お母様は、なぜお嬢さんが事故現場付近にいたのかご存知ですか?』
「親友を探していると言っていました。」
仕方なく有紀子は答えると、相手の出方を待った。
『親友というのは、亡くなられた近江政(かず)臣(おみ)氏の長女、絢子(あやこ)さんのことですね? もう、十年前に亡くなられた。』
馬鹿な事を言うなと言いたげな刑事の言葉には、なぜか釈然としない響きがあった。
「はい、そうです。ですが遺体は見つからず、容疑者は公判が始まってすぐに自殺。娘は、絢子さんは生きていると信じていました。この件に関しましては、フリーライターの栗栖(くりす)万年(たかとし)という方から情報を戴いて、最近はその方に同行して捜索していたようです。」
有紀子が言うと、刑事はメモを取っているようで、次の質問までにしばらくの間があった。
『わかりました。今のところ、重要参考人として、お話を伺わせていただきたいと思っておりますが、問題がありまして・・・・・・。』
刑事はそこまで言うと、口ごもった。
「美波、怪我をしているんですか?」
有紀子は無意識のうちに、受話器を握り締めた。
『事故現場で発見された割には軽症ですが、事故のショックでしょうか、まったく口をきかれないんですよ。そういった症状は、以前にありましたか?』
「いいえ、ありません。」
有紀子は言うと、その場にぺたりと座り込んだ。
『担当医師の方から、ご家族の方々に面会された方が、ショックから開放され易いのではないかと連絡がありましたので、ご面会にいらしてかまいません。』
刑事は言うと、有紀子に病院の連絡先と場所を教えてくれた。
「ありがとうございました。」
有紀子は言うと、電話をきった。
「とにかく、すぐに逢いに行って見ましょう。」
電話の一部始終を有紀子の心から読み取っていた美夜子は言うと、敦に車を出すよう目で合図した。
「すぐ来る。」
敦は言うと、駆け出していった。
「美波の様子は?」
智は、控えめに問いかけた。
「怪我はたいしたことないらしいの。でも、何も話をしないそうよ。」
有紀子は言うと、俯いた。
敦は、車を玄関前に止めると、エンジンをかけたまま三人を呼びに玄関まで入ってきた。三人は、急いで戸締りをすると、敦の車に乗り込んだ。