MAZE ~迷路~
目覚めた美波は、まず最初に胃がもたれるのを感じた。
(・・・・・・・・ティンク、何食べたんだろう・・・・・・・・)
美波は考えながら起き上がると、枕元に置いてある日記帳に目を留めた。
(・・・・・・・・ティンク、気付いたんだ・・・・・・・・)
考えるが早いか、美波は日記帳を開いた。
絢子からのメッセージは、『愛する美波』と始まっていた。
絢子の文体は、高校時代から、ちっとも変わっていないように感じられた。少なくとも、絢子と美波の中では、あの時以来、時間が止まってしまっていたのだから、それは言うまでもない事だった。
(・・・・・・・・相変わらずなんだから・・・・・・・・)
美波は、絢子のメッセージを読みながら、ため息をついた。
「いっつもこうなんだから。」
美波は言うと、日記を閉じた。
(・・・・・・・・ティンクの言うのは、間違いじゃない。力の事は実験済みだし。ティンクは敦に本を当てられなかったけど、グラスはちゃんと私の手元まで飛んできた。だとすると、やっぱり、力のコントロールが一番つくのは、私って事になる。ティンクを起こすのに、タイミングとか、やっぱりあるのかなぁ・・・・・・・・)
美波は悩みながら、日記を引き出しにしまいに机のところまで歩いていった。
机の上には、美波の好きな『ブラック・ティー』が飾られていた。月明かりだけでは、はっきりとは言えなかったが、香りの強さといい、花びらの色の深さといい、美波が寝ている間に届けられたものに間違いはなかった。
「智・・・・・・。」
美波は呟くようにして、智の名を呼んだ。
花瓶の周りを探してみたが、カードは見つからなかった。
階段を駆け下りると、美波は一目散に居間に走りこんだ。
「ママ、智が来たの?」
有紀子を見るなり、美波は問いかけた。
「いつものお花屋さんが届けに来たわ。」
有紀子が言うと、美波は降りてきたばかりの階段を駆け上った。
部屋に帰ると、美波はすぐに智の携帯を鳴らした。しかし、いくら鳴らしても、智は電話に出なかった。電話を切ると、美波は智の部屋にもかけなおしてみたが、留守番電話にも繋がらず、智はまったく応答しなかった。
「美波、どうするつもりなの?」
心配して部屋まで来た有紀子に、美波はカレンダーを指差した。
「今日は、記念日なの。」
美波は言うなり、パジャマを脱ぎ捨てた。
「でも、婚約を解消したいって。ママ、電話で智さんの口から聞いたのよ。」
有紀子は、言い難そうに言った。
「智と話してくる。」
美波は言うと、洋服ダンスのドアーをあけた。
「でも、いつ絢子ちゃんと入れ替わってしまうかわからないのよ。」
有紀子は心配そうに言うと、美波の腕を掴んだ。
「ティンクと、融合する話が決まったの。もしかして、失敗したら、もう二度と智に話ができなくなっちゃう。だから、もう一度、智に会いたいの。」
美波は言うと、洋服に着替えた。
「一人で行くのは、危険よ。何があるか解からないわ。」
有紀子は、必死で止めようとした。
「俺が送っていきますよ。」
敦の声に、二人は驚いて振り返った。
「来て見たら、一階に誰もいなくて、二階で声がしてたんで、あがってきたんです。」
敦は言い訳がましく言うと、『着替えるところは見てないからな』と、さらに言い訳がましく、付け足した。
「でも、私、智に逢いに行くのよ。」
美波は言うと、俯いた。
(・・・・・・・・美波、愛してる。行かせたくない。でも、美波が智を愛してるなら・・・・・・。美波の幸せが、一番大切なんだ。俺は、美波の兄貴のままでも生きていかれる。智と結婚したからって、美波を失うわけじゃない・・・・・・・・)
敦の切ない想いが、美波の中に流れ込んできた。
「すぐに、車を出してくる。」
敦は言うと、背中を向けた。
「ありがとう。」
美波は言うと、バッテリーが辛うじて残っている携帯電話をカバンに詰めた。
「ママ、必ず帰ってくるから。」
美波は言うと、有紀子を残して階段を駆け下りていった。
☆☆☆
車に乗ってからも、敦は何も言わなかった。
安全運転だけが取り柄のタクシー運転手のように、もくもくと運転を続けた。
「敦?」
美波は恐る恐る、呼びかけた。
「どうした?」
敦の声は、いつもと変わらない、優しい声だった。
(・・・・・・・・私は、いつもこうやって、敦の想いを踏みにじってるんだ・・・・・・・・)
美波は、喩えようもない罪悪感に苛まれた。
「大切な事、言っておかないといけないな。」
敦は言うと、信号待ちでハンドブレーキをひいた。
「もし智の奴が、美波の事を悪く言ったら、俺は承知しない。でも悔しいけど、二人が仲直りできるんなら、俺は、朝までだって外で待っててやる。話す事、いっぱいあるだろ。まあ、全部を話したところで、智の小さい脳みそで理解できるかは疑問だけどな。」
敦は言うと、再びゆっくりと車を走らせ始めた。
「敦は、話したほうが良いと思う?」
美波の問いに、敦はなかなか返事をしなかった。
「そうだな。親父もおじさんも知らないんだろう。俺だって、信じてるけど、他にもそういう一族がいっぱいいてって言われると、どこまで信じて良いのか、どこまで信じられるのか、微妙だからな。間合いって言うか、その時の雰囲気とか、そう言ったもので決めたほうが良い気がする。」
敦の言葉に、美波は黙って頷いた。
智のマンション脇の駐車場に車を止めると、敦は美波の為にドアーを開けてくれた。
「無理するな。人には、それぞれ限界ってものがある。」
敦は言うと、やさしく美波の背中を押してくれた。
最後の最後で躊躇していた美波は、敦の手に押されて、智の部屋へと歩き始めた。
☆☆☆
体が石鹸でできていたら、すべて水に溶けて流れてしまうくらい、智はシャワーを浴び続けていた。
電話のベルが鳴った気もしたが、それでも智はシャワーから出ようとはしなかった。
(・・・・・・・・俺って、情けない・・・・・・・・)
智は頭を風呂場の壁に叩き付けたい衝動に駆られたが、寸でのところで思いとどまると、シャワーの栓を閉じた。
「こんな事したって、美波が帰ってくるわけじゃない。」
呟きながら、智はバスタオルを体に巻いて部屋に戻った。
濡れた髪を乾いたバスタオルで拭きながら、智はベッドに腰を下ろした。いつもなら、シーツが濡れるのが嫌で、キッチンの椅子に座る智だったが、今日はキッチンまで行く気力がなかった。
気力がないなどと言うと、まるで豪奢なマンションに住んでいるように聞こえるが、実際のところ、智のマンションは日本式で言えば、ワンルーム。イギリス式に言うと、スタジオフラットと呼ばれるタイプのもので、玄関を入ってすぐの所にキッチン、もしくはリビングキッチンと称し、奥まった部分をベッドルームとして仕切って使っているだけのもので、たまたまトイレとお風呂がベッドを置いてある辺りに出入り口があるので、一見すると、マスターベッドルームにお風呂場が付いているような、雰囲気をかもし出しているだけの事だった。
もちろん、プライベートを守る意味でも、玄関からはベッドが見えないように仕切りをおいていたが、なんとなくドアーを開けられた時の事が心配で、智がバスタオルを巻いただけでベッドに座っている事は珍しかった。
「ああ、疲れた。」
智は呟くと、そのままベッドに横になった。
両手を広げても、腕が宙を散歩しないダブルベッドは、妙に広く感じられた。
(・・・・・・・・俺って、孤独だ・・・・・・・・)
智は考えながら、天井を見つめた。
特に仕事が変わったわけでも、忙しくなったわけでもなかったが、プライベートにメリハリがないせいか、疲労は溜まる一方だった。
「美波の顔を見ると、元気になるんだけどな。」
智は呟きながら、両手で目を被った。
(・・・・・・・・俺って馬鹿だ・・・・・・・・)
智がそんな事を考えていると、玄関のベルが鳴った。
(・・・・・・・・どうせ、隣の部屋のボーイフレンドが、また、酔っ払って部屋を間違えてるに決まってる・・・・・・・・)
智は考えると、ベルの音を無視した。
それでも、ベルはしつこく鳴りつづけた。
(・・・・・・・・うるさいなぁ。いい加減、気がつけよ、隣の部屋なんだから・・・・・・・・)
智が考えていると、玄関の鍵が開く音がした。
(・・・・・・・・空き巣か? おい、ここは隣と違って、男の一人暮らしだぞ!・・・・・・・・)
智は、声に出して言いそうになりながら、ベッドの上に起き上がった。
(・・・・・・・・俺、かなり重症だ。空き巣が美波に見えてる・・・・・・・・)
智は、両手で頭を押さえた。
☆☆☆
何度ベルを押しても返事のない智に、業を煮やした美波は、ポケットから合鍵を取り出した。
実際、長時間起きていた事のない美波には、いつ、どのタイミングで絢子とのスイッチングが起こるかわからず、眠気が襲ってくるたびに、スイッチングが起こるのではと、不安な気持ちになっていた。
鍵を開けて部屋に入ると、正面にあるベッドの上に、半裸の智が座っていた。
(・・・・・・・・嘘。他の人と一緒なんだ・・・・・・・・)
床に脱ぎ捨ててある洋服と、ベッドの上のふくらみに、すっかり誤解した美波は、慌てて智の部屋のドアーを閉めた。
(・・・・・・・・部屋にいるのに、出ないわけなかったんだ。私が来るって、知らないんだから、居留守使ってるわけなんて、なかったんだ・・・・・・・・)
美波は、涙があふれてくるのを感じた。
(・・・・・・・・他の人といるなら、何でブラック・ティーなんて、送ったりするのよ・・・・・・・・)
美波は智の部屋の前に蹲り、声を潜めて泣き始めた。
☆☆☆
(・・・・・・・・ティンク、何食べたんだろう・・・・・・・・)
美波は考えながら起き上がると、枕元に置いてある日記帳に目を留めた。
(・・・・・・・・ティンク、気付いたんだ・・・・・・・・)
考えるが早いか、美波は日記帳を開いた。
絢子からのメッセージは、『愛する美波』と始まっていた。
絢子の文体は、高校時代から、ちっとも変わっていないように感じられた。少なくとも、絢子と美波の中では、あの時以来、時間が止まってしまっていたのだから、それは言うまでもない事だった。
(・・・・・・・・相変わらずなんだから・・・・・・・・)
美波は、絢子のメッセージを読みながら、ため息をついた。
「いっつもこうなんだから。」
美波は言うと、日記を閉じた。
(・・・・・・・・ティンクの言うのは、間違いじゃない。力の事は実験済みだし。ティンクは敦に本を当てられなかったけど、グラスはちゃんと私の手元まで飛んできた。だとすると、やっぱり、力のコントロールが一番つくのは、私って事になる。ティンクを起こすのに、タイミングとか、やっぱりあるのかなぁ・・・・・・・・)
美波は悩みながら、日記を引き出しにしまいに机のところまで歩いていった。
机の上には、美波の好きな『ブラック・ティー』が飾られていた。月明かりだけでは、はっきりとは言えなかったが、香りの強さといい、花びらの色の深さといい、美波が寝ている間に届けられたものに間違いはなかった。
「智・・・・・・。」
美波は呟くようにして、智の名を呼んだ。
花瓶の周りを探してみたが、カードは見つからなかった。
階段を駆け下りると、美波は一目散に居間に走りこんだ。
「ママ、智が来たの?」
有紀子を見るなり、美波は問いかけた。
「いつものお花屋さんが届けに来たわ。」
有紀子が言うと、美波は降りてきたばかりの階段を駆け上った。
部屋に帰ると、美波はすぐに智の携帯を鳴らした。しかし、いくら鳴らしても、智は電話に出なかった。電話を切ると、美波は智の部屋にもかけなおしてみたが、留守番電話にも繋がらず、智はまったく応答しなかった。
「美波、どうするつもりなの?」
心配して部屋まで来た有紀子に、美波はカレンダーを指差した。
「今日は、記念日なの。」
美波は言うなり、パジャマを脱ぎ捨てた。
「でも、婚約を解消したいって。ママ、電話で智さんの口から聞いたのよ。」
有紀子は、言い難そうに言った。
「智と話してくる。」
美波は言うと、洋服ダンスのドアーをあけた。
「でも、いつ絢子ちゃんと入れ替わってしまうかわからないのよ。」
有紀子は心配そうに言うと、美波の腕を掴んだ。
「ティンクと、融合する話が決まったの。もしかして、失敗したら、もう二度と智に話ができなくなっちゃう。だから、もう一度、智に会いたいの。」
美波は言うと、洋服に着替えた。
「一人で行くのは、危険よ。何があるか解からないわ。」
有紀子は、必死で止めようとした。
「俺が送っていきますよ。」
敦の声に、二人は驚いて振り返った。
「来て見たら、一階に誰もいなくて、二階で声がしてたんで、あがってきたんです。」
敦は言い訳がましく言うと、『着替えるところは見てないからな』と、さらに言い訳がましく、付け足した。
「でも、私、智に逢いに行くのよ。」
美波は言うと、俯いた。
(・・・・・・・・美波、愛してる。行かせたくない。でも、美波が智を愛してるなら・・・・・・。美波の幸せが、一番大切なんだ。俺は、美波の兄貴のままでも生きていかれる。智と結婚したからって、美波を失うわけじゃない・・・・・・・・)
敦の切ない想いが、美波の中に流れ込んできた。
「すぐに、車を出してくる。」
敦は言うと、背中を向けた。
「ありがとう。」
美波は言うと、バッテリーが辛うじて残っている携帯電話をカバンに詰めた。
「ママ、必ず帰ってくるから。」
美波は言うと、有紀子を残して階段を駆け下りていった。
☆☆☆
車に乗ってからも、敦は何も言わなかった。
安全運転だけが取り柄のタクシー運転手のように、もくもくと運転を続けた。
「敦?」
美波は恐る恐る、呼びかけた。
「どうした?」
敦の声は、いつもと変わらない、優しい声だった。
(・・・・・・・・私は、いつもこうやって、敦の想いを踏みにじってるんだ・・・・・・・・)
美波は、喩えようもない罪悪感に苛まれた。
「大切な事、言っておかないといけないな。」
敦は言うと、信号待ちでハンドブレーキをひいた。
「もし智の奴が、美波の事を悪く言ったら、俺は承知しない。でも悔しいけど、二人が仲直りできるんなら、俺は、朝までだって外で待っててやる。話す事、いっぱいあるだろ。まあ、全部を話したところで、智の小さい脳みそで理解できるかは疑問だけどな。」
敦は言うと、再びゆっくりと車を走らせ始めた。
「敦は、話したほうが良いと思う?」
美波の問いに、敦はなかなか返事をしなかった。
「そうだな。親父もおじさんも知らないんだろう。俺だって、信じてるけど、他にもそういう一族がいっぱいいてって言われると、どこまで信じて良いのか、どこまで信じられるのか、微妙だからな。間合いって言うか、その時の雰囲気とか、そう言ったもので決めたほうが良い気がする。」
敦の言葉に、美波は黙って頷いた。
智のマンション脇の駐車場に車を止めると、敦は美波の為にドアーを開けてくれた。
「無理するな。人には、それぞれ限界ってものがある。」
敦は言うと、やさしく美波の背中を押してくれた。
最後の最後で躊躇していた美波は、敦の手に押されて、智の部屋へと歩き始めた。
☆☆☆
体が石鹸でできていたら、すべて水に溶けて流れてしまうくらい、智はシャワーを浴び続けていた。
電話のベルが鳴った気もしたが、それでも智はシャワーから出ようとはしなかった。
(・・・・・・・・俺って、情けない・・・・・・・・)
智は頭を風呂場の壁に叩き付けたい衝動に駆られたが、寸でのところで思いとどまると、シャワーの栓を閉じた。
「こんな事したって、美波が帰ってくるわけじゃない。」
呟きながら、智はバスタオルを体に巻いて部屋に戻った。
濡れた髪を乾いたバスタオルで拭きながら、智はベッドに腰を下ろした。いつもなら、シーツが濡れるのが嫌で、キッチンの椅子に座る智だったが、今日はキッチンまで行く気力がなかった。
気力がないなどと言うと、まるで豪奢なマンションに住んでいるように聞こえるが、実際のところ、智のマンションは日本式で言えば、ワンルーム。イギリス式に言うと、スタジオフラットと呼ばれるタイプのもので、玄関を入ってすぐの所にキッチン、もしくはリビングキッチンと称し、奥まった部分をベッドルームとして仕切って使っているだけのもので、たまたまトイレとお風呂がベッドを置いてある辺りに出入り口があるので、一見すると、マスターベッドルームにお風呂場が付いているような、雰囲気をかもし出しているだけの事だった。
もちろん、プライベートを守る意味でも、玄関からはベッドが見えないように仕切りをおいていたが、なんとなくドアーを開けられた時の事が心配で、智がバスタオルを巻いただけでベッドに座っている事は珍しかった。
「ああ、疲れた。」
智は呟くと、そのままベッドに横になった。
両手を広げても、腕が宙を散歩しないダブルベッドは、妙に広く感じられた。
(・・・・・・・・俺って、孤独だ・・・・・・・・)
智は考えながら、天井を見つめた。
特に仕事が変わったわけでも、忙しくなったわけでもなかったが、プライベートにメリハリがないせいか、疲労は溜まる一方だった。
「美波の顔を見ると、元気になるんだけどな。」
智は呟きながら、両手で目を被った。
(・・・・・・・・俺って馬鹿だ・・・・・・・・)
智がそんな事を考えていると、玄関のベルが鳴った。
(・・・・・・・・どうせ、隣の部屋のボーイフレンドが、また、酔っ払って部屋を間違えてるに決まってる・・・・・・・・)
智は考えると、ベルの音を無視した。
それでも、ベルはしつこく鳴りつづけた。
(・・・・・・・・うるさいなぁ。いい加減、気がつけよ、隣の部屋なんだから・・・・・・・・)
智が考えていると、玄関の鍵が開く音がした。
(・・・・・・・・空き巣か? おい、ここは隣と違って、男の一人暮らしだぞ!・・・・・・・・)
智は、声に出して言いそうになりながら、ベッドの上に起き上がった。
(・・・・・・・・俺、かなり重症だ。空き巣が美波に見えてる・・・・・・・・)
智は、両手で頭を押さえた。
☆☆☆
何度ベルを押しても返事のない智に、業を煮やした美波は、ポケットから合鍵を取り出した。
実際、長時間起きていた事のない美波には、いつ、どのタイミングで絢子とのスイッチングが起こるかわからず、眠気が襲ってくるたびに、スイッチングが起こるのではと、不安な気持ちになっていた。
鍵を開けて部屋に入ると、正面にあるベッドの上に、半裸の智が座っていた。
(・・・・・・・・嘘。他の人と一緒なんだ・・・・・・・・)
床に脱ぎ捨ててある洋服と、ベッドの上のふくらみに、すっかり誤解した美波は、慌てて智の部屋のドアーを閉めた。
(・・・・・・・・部屋にいるのに、出ないわけなかったんだ。私が来るって、知らないんだから、居留守使ってるわけなんて、なかったんだ・・・・・・・・)
美波は、涙があふれてくるのを感じた。
(・・・・・・・・他の人といるなら、何でブラック・ティーなんて、送ったりするのよ・・・・・・・・)
美波は智の部屋の前に蹲り、声を潜めて泣き始めた。
☆☆☆