英雄は愛のしらべをご所望である
照明がだんだんと明るさを落とし、それに誘導されるように賑わいも落ち着いていく。
中央のステージだけが異様な空間に見えるのは、ただ単に照らし出されているからなだけでなく、そこに立つラルドが物語から抜け出てきたと錯覚させる程の美人だからだ。
ラルドが一度ハープを弾けば、皆の意識全てがラルドへと向けられる。何度も聞いているセシリアだって例外ではなかった。
けれど、今のセシリアにはラルドよりも気になるものがある。
壁際に立ち、セシリアがひたすら眺めていたのは、ステージに真剣な眼差しを向けるウィルの横顔だった。
改めて見ると、幼さの残っていた顔からは丸みがなくなり、シュッとした大人の男性へと成長している。肩幅や身長だって、比べ物にならないほど大きくなった。
よく来店時にウィルだと気付いたな、とセシリアは自分自身に感心してしまった。
店員であるセシリアがゆっくりできるのはラルドの演奏時間のみだ。客の邪魔にならないための配慮なのだが、今ならウィルを観察し放題である。ラルドの演奏をバックに眺められるなど、贅沢だとすら言える。
セシリアは高鳴る鼓動を抑えつけながら、遠慮なくウィルを見つめ続けていた。
そんな時、視界の端に映るシルバの肩が小さく揺れていることにセシリアは気がついた。
演奏に感動して泣くのを堪えているのかな、と思ったが、向かいに座るウィルのシルバへ送る眼差しが、どこか呆れているようにも見える。
どうしたのだろうか、と不思議に思いながら眺めていたセシリアは、次の瞬間、驚きのあまり息を呑んだ。
シルバに向けられていたはずの黒い瞳が一度伏せられたかと思うと、次はセシリアへと向けられたのだ。
勘違いなどではない。セシリアはステージとは反対側の壁際に立っており、ウィルが若干後ろを向かなければ、目が合うはずなどないのである。
明らかに自分へと向けられた眼差しに、セシリアの心臓は張り裂けそうなほど暴れだした。
もうセシリアの耳にラルドの演奏など届きはしない。
セシリアの意識は、只ひたすらにウィルへと向いていた。
中央のステージだけが異様な空間に見えるのは、ただ単に照らし出されているからなだけでなく、そこに立つラルドが物語から抜け出てきたと錯覚させる程の美人だからだ。
ラルドが一度ハープを弾けば、皆の意識全てがラルドへと向けられる。何度も聞いているセシリアだって例外ではなかった。
けれど、今のセシリアにはラルドよりも気になるものがある。
壁際に立ち、セシリアがひたすら眺めていたのは、ステージに真剣な眼差しを向けるウィルの横顔だった。
改めて見ると、幼さの残っていた顔からは丸みがなくなり、シュッとした大人の男性へと成長している。肩幅や身長だって、比べ物にならないほど大きくなった。
よく来店時にウィルだと気付いたな、とセシリアは自分自身に感心してしまった。
店員であるセシリアがゆっくりできるのはラルドの演奏時間のみだ。客の邪魔にならないための配慮なのだが、今ならウィルを観察し放題である。ラルドの演奏をバックに眺められるなど、贅沢だとすら言える。
セシリアは高鳴る鼓動を抑えつけながら、遠慮なくウィルを見つめ続けていた。
そんな時、視界の端に映るシルバの肩が小さく揺れていることにセシリアは気がついた。
演奏に感動して泣くのを堪えているのかな、と思ったが、向かいに座るウィルのシルバへ送る眼差しが、どこか呆れているようにも見える。
どうしたのだろうか、と不思議に思いながら眺めていたセシリアは、次の瞬間、驚きのあまり息を呑んだ。
シルバに向けられていたはずの黒い瞳が一度伏せられたかと思うと、次はセシリアへと向けられたのだ。
勘違いなどではない。セシリアはステージとは反対側の壁際に立っており、ウィルが若干後ろを向かなければ、目が合うはずなどないのである。
明らかに自分へと向けられた眼差しに、セシリアの心臓は張り裂けそうなほど暴れだした。
もうセシリアの耳にラルドの演奏など届きはしない。
セシリアの意識は、只ひたすらにウィルへと向いていた。