英雄は愛のしらべをご所望である

「そんなに見つめたらセシリアさんの体に穴があくよ」


笑いの含んだその声にウィルは視線を前へと戻す。テーブルに肘を置き、頬杖をつくシルバの口元は笑っているが、目は笑っていなかった。


「今日、食事に行こうって誘った時は断ったくせに、結局来たんだな」
「急に腹が減ったんだ」


理由としては若干酷い回答である。
シルバは堪らずため息をひとつ溢した。


「……邪魔、しないでほしいな」
「邪魔?」


ウィルの表情が険しさを増す。けれど、シルバは全く気にする様子を見せなかった。


「見ただろう? 俺、セシリアさんを口説いてたんだ」


ウィルの眉がぴくりと動く。
脳裏に浮かぶのは、テーブルの上で繋がった白くて細い手とシルバの手。

途端にウィルは舌打ちしたい気分になった。
誤魔化すように背もたれに身を預け、ぐりぐりとこめかみに指を押し付ける。

けれど、小さな痛みだけでは、はっきりと刻まれた映像を消すことはできなかった。


「イラついてるなぁ」


そのおちょくるようなシルバの口調にウィルの苛立ちはより募っていく。
ギロリとウィルがシルバを睨み付けたのは本能に近かった。
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