英雄は愛のしらべをご所望である

「本気か?」


シルバはウィルのような、立場的にも性格的にも面倒な人間に、平気で話しかけられるタイプの人物だ。

社交性が高いとも言えるのだが、それが性別関係なく発揮され、紳士的な振る舞いをするものだから、勘違いする女性も多い。
まだ異動してきてそれほど経ってはいないけれど、ウィルはそんなシルバを近くで見てきている。

見てきたからこそ、シルバの本心がはかりきれず、この質問が自然とウィルの口から出たのだ。

問いかけられたシルバは、若干驚くような素振りを見せた。


「ウィルからそんなことを聞かれる日が来るとは思わなかったよ。気になるのか?」


ヘラっとシルバが表情を崩した瞬間、ウィルの中で何かが弾けた。
勢いよく伸びた手が、シルバの胸ぐらを掴む。あまりの速さにシルバは避けることもできず、されるがままだった。


「ちゃんと答えろ」


地を這うような低く重たい声が空気を震わせる。
生死の狭間を戦い抜いた死神の黒い瞳に映るシルバは、僅かに口元を歪ませた。


「お前に伝える必要性を感じないね。だって、ウィル。お前は言ってたじゃないか。セシリアさんに興味はない。ただの腐れ縁の幼なじみだって」
「それはっ!? ……」


ウィルは反論しようとするも、口を閉じる。言葉が何一つ出てこなかった。
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