英雄は愛のしらべをご所望である
きっと昔ならばーー
いや、つい先日までだったら、ウィルはセシリアの態度のどれを見ても『成長したんだな』と兄的な視点から感想を抱いていただろう。
事実、久しぶりに再会したセシリアは見違えるほどに大人の女性へと変貌していた。
少女時代に別れたことも理由だろうが、成長の速さに内心驚いたくらいだ。
だからって、ウィルがセシリアに向ける感情が簡単に変わるはずもない。
セシリアはウィルにとって、見守るべき対象であって、友人や恋人、ましてや家族とも違う、不思議な位置付けにいる人物。
そこに明確な名称はなく、だからこそ『腐れ縁』や『幼なじみ』という言葉がしっくりきたのだ。
では、今、己の中に渦巻いている黒々としたものはなんだろうか、とウィルは思う。
出会ってから大した日数も経っていないというのに、セシリアと親しげに話しているシルバ。
その社交性に苛立ちが募る。
こちらを見ようともしないセシリアを、シルバから引き離したいという身勝手な感情に苛まれる。
そしてなにより、謝罪の言葉一つ言えない自分に腹が立ってくる。