英雄は愛のしらべをご所望である
ウィルは村を出たあの日から、心身共に鍛えてきたつもりだった。
騎士団の入団試験を受けるため、独学で剣術や体術を身につけ、夜営しながら試験会場の王都を目指した。
一度では受からず、もう一年修行をするのだが、それまでの間は、生きるために様々な仕事もして、子供だからと酷い扱いを受けたこともあった。
珍しい見た目故に、人攫いにあいかけたことも数知れない。
それでも何とか騎士団に入団できたはいいが、平民出であることや孤児であることを馬鹿にされ、唇を何度も噛みしめ悔しさを凌いで、苦しい訓練に耐え、配属されたのが第三騎士団。
未だ人を斬ることに慣れぬまま、生きるか死ぬかの戦場に投げ出され、無我夢中で剣を振った。
そして、ウィル自身の知らぬ間に『黒き英雄の再来』と呼ばれ、今では第二騎士団に配属されている。
ーー孤児としてではなく、自分自身を手に入れる。
そのために騎士を目指した。黒き英雄のように自らの手で、生きている意味をつかみ取りたかった。
つかみ取れた……はずだったのに。