英雄は愛のしらべをご所望である
スッと目の前にグラスが現れ、ウィルはハッと顔を上げた。
視線の先にあったのは、怒っていることを隠しもしないムスッとしたセシリアの顔で、瞬間、ウィルの瞳が大きく揺れる。
「感情を隠すのが得意なウィルにしては珍しいのね」
固まったまま動かないウィルを見かねて、セシリアが受けとれとばかりにグラスを押し付けてくる。
「ご注文のお品ですよ」
「あ、あぁ。悪い」
「謝る相手はシルバさんでしょう」
そう言われてやっと周りに目を向ければ、シルバの姿が見えなかった。
どれだけ考え込んでいたのだろうか、とウィルは表情を歪める。
「あいつは?」
「食事も終わってたし、なかなかウィルが動き出さないからって帰ったよ。気まずいままの食事にならないよう気を使ってくれたんじゃない? 何があったかは知らないけど、ちゃんと仲直りしたほうがいいと思うよ?」
「……そうか」
ウィルは情けなくなり、誤魔化すようにグラスに口をつけた。
そんなウィルをセシリアは黙ってじっと見つめてくる。その沈黙に耐えきれなかったのは、珍しくもウィルの方だった。