英雄は愛のしらべをご所望である
セシリアはウィルが好きだ。
初恋の相手と再会してそう思ってるだけなのでは?
そう考えたこともあったけれど、彼を目の前にしてしまえば、自分の心の真実をウダウダと悩んでいた時間が一瞬で無駄になる。
恋とか愛とか、何が正解なのかとか、わからないことばかりだけど、一つだけはっきりしてるのは、今、己自身が感じているものに嘘はないということ。
ウィルが自分の側で安らぎを感じてくれていることへの、喜びや安堵。
ウィルが目を覚まして、また危険な場に身を置くことへの、不安。
それでも、ウィルが決めたことを否定したくないという想い。
それは、好きだからこその感情なのかもしれない。
だが、『幼なじみとして』にできないこともない。
ウィルが『幼なじみ』を望むのならば、セシリアは自分の心に蓋をして笑うこともできるーーしてみせる。
「……どうしてほしい?」
セシリアはウィルの胸に額を軽く押し付ける。
すると、それに反応してかウィルの抱き締める手に力が入った。
けれど、セシリアの頭上からは寝息が微かに聞こえてくる。
堪らずセシリアはふっ、と息を吐き出すように笑いを溢した。
「困ったな……」
小さくそう漏らしたセシリアの頭にコツリと何かがあたり、セシリアは顔を上げた。
視界に飛び込んできたのは、ずっと着けていたのかチェーンが緩みぎみのペンダント。
そのペンダントのトップを目にした瞬間、セシリアはへにゃっと眉尻を下げる。
「あぁ、ほんとに……困った」
そして、噛み締めるようにウィルの胸にもう一度額を寄せた。