英雄は愛のしらべをご所望である
迎えた朝に
ゴソゴソという布の擦れる音と振動でセシリアは重い瞼を薄っすら開けた。
カーテンの閉まっていない窓の外は、ほんのり闇に色が混じり始めていたが、目を覚ますには早すぎる。
そう思って掛け布団を引き上げたところでセシリアははた、と動きを止めた。
昨夜、布団なんてかけただろうか。
いや、それどころか、どうやって寝て……そこまで考えてセシリアは勢いよく身体を起こした。
「ウィルっ!」
反射的にあげられた名前の主は、ベッドに背を向けた状態でビクリと肩を揺らした。
白いシャツの背がセシリアを一気に覚醒させていく。
「……おはよう、ウィル」
「あぁ、おはよう」
少し掠れたセシリアの声に、いつもと変わらぬトーンの声が返ってくる。
だが、ウィルはなかなか振り返ろうとしなかった。
後ろからではよくわからないが、首元のボタンを閉めているようだ。
「よく眠れた?」
セシリアは意識して何でもないように話し続けた。
すると、ウィルがゆっくりと振り返る。
どんな顔をしているのかと少し期待していたけれど、セシリアが期待するような表情は得られなかった。
「お陰さまでな」
拍子抜けするくらいのいつも通りさである。
違いといえば、襟足の髪が少し跳ねている程度か。それも、可愛いもので、要するに身支度が済んでいた。