英雄は愛のしらべをご所望である
「それじゃあ、そろそろ行く。世話になったな」
「あっ、うん。また遠慮なく休みに来てね」
「さすがに今回は遠慮なく休みすぎたけどな」
そんなことないよ、と言うのを堪え、セシリアはふふふっと笑い返す。
そんなセシリアにウィルは一枚の紙切れを差し出した。
セシリアは首を傾げながらも、それを受けとる。
「何か困ったこととかがあったら、そこに伝言を残してくれ。それじゃあな。お前が演奏できるようになるのを楽しみにしてる」
去っていくウィルの背を唖然とした顔で眺めていたセシリアは、はっと我に返る。
「いってらっしゃいっ!」
咄嗟に叫んだセシリアの言葉にウィルは片手を上げて返すと、そのままドアを抜けて裏庭を出ていった。
余韻に浸ること数分。
セシリアはそっと二つ折にされた紙切れを開く。
そこには、簡単な地図が書かれていて、一ヶ所に丸印がされていた。
今日何度目かの笑いが漏れる。
ウィルは不器用ながらとても優しい。
そしてそれが、時々恨めしい。
こんなことしたら普通の女の子は勘違いしてしまうだろう。
だがーー
「……勘違いなんて、してあげない」
セシリアは空を見上げてくしゃりと笑った。