英雄は愛のしらべをご所望である
貴族の屋敷
首が痛くなるほど高い天井には、夜空から星々を摘み取ってきたかのようなシャンデリアが眩い光を放つ。人の背丈ほどもある誕生ケーキに種類豊富な軽食が並び、人々が身に纏うドレスは花束のように鮮やかで、重厚感のある音楽が会場を華やかに彩る。

その中で、一段と輝いていたのが、本日の主役である令嬢、カロリア・フィスチーク嬢だった。フィスチーク伯爵家は、歴史の長い由緒あるお家柄で、父親であるフィスチーク伯爵は大臣職についているという。
屋敷も大きく、招待客の数や屋敷の中の骨董品を見ても、かなりの財力だとラルドは言っていた。

まるでお伽話の世界のような光景に、セシリアはラルドの言う凄さがあまり理解できなかった。自分の人生とかけ離れすぎていてイメージが上手くできないのである。

そんな状態の中、セシリアがわかったことといえば、カロリアがとても美人であることと、演奏している者達よりもラルドの方が演奏技術が高いこと。そして、カロリアが美しいもの好きであることだ。

というのも、カロリアの周りには世話を焼く男性が多くいたのだが、その誰もが皆が振り返るほどの美形ばかりだったのである。
ラルドが呼ばれたのも、見てみたいという好奇心からだと聞いていたので、間違いないだろうと、セシリアは思った。

セシリアは決して美男子好きを否定するつもりはない。女性ならば一度は憧れる、とセシリアも共感すらする。


「……だからって追い出さなくても」


思わず溢れた愚痴をセシリアは大きな溜息で誤魔化した。
今回の誕生会に呼ばれたのはラルドだけだ。招待状と共にラルドの衣装も用意されるほどの熱量だったので、よほど会いたかったのだろう。

そして、ラルドを見た時、カロリアの瞳は確かに輝いていた。きっと気に入ったに違いない。
だからこそなのかもしれないが、ラルドの後ろに弟子として控えていたセシリアに向けるカロリアの目は、とても冷たく、背筋が凍りそうになるほど恐ろしかった。

一応セシリアの持つ一張羅を着てきたのだけど、やはり貴族の誕生会では浮いてしまうのも仕方がない。
そこで、ドレスを用意しましょう、となったら有難いのだが、カロリアはセシリアに「薄汚い小娘ね。とっとと出て行って」と勢いよく扉を指差したのだ。

少しだけ楽しみにしていたセシリアも、さすがに誕生会を壊すわけにはいかないと、素直に会場の外へ出る。ラルドの口添えのおかげで屋敷から出されることはなかったが、セシリアは遠くから微かに聞こえてくる賑やかな音を一人寂しく控え室で聞いていた。
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