英雄は愛のしらべをご所望である
「何をするつもりだ」
淡々としたウィルの口調が、セシリアを混乱させる。
「だ、だって、あんなこと言われたら腹が立つでしょう? 好き勝手なことばかり言ってーー」
「別に言わせておけばいい」
セシリアの眉にぐっと力が入る。不満を隠しもしないセシリアの姿に、ウィルは小さく息を吐き出した。
しばしの沈黙が二人の間に流れる。その間に、男たちの足音は遠ざかっていった。
ウィルは気配が感じられなくなってから、セシリアの腕を掴む手を離す。解放されたセシリアは、僅かに痛む腕をそっとさすった。
「……あいつらに文句を言いに行ったら隠れた意味がないだろうが」
「それは、そうだけど……」
今だに納得していないセシリアを黙って見つめていたウィルは、すっと音もなく立ち上がる。ふわっと風が吹き、黒い髪がウィルの表情を隠した。
「それに、あいつらが言ってることは、あながち間違いじゃないしな」
「ーーえ?」
セシリアは座り込んだ体勢のまま顔を上げた。
屋敷から漏れた明かりが、凛としたウィルの立ち姿を浮かび上がらせる。白い騎士服がやけにはっきり見えた。
「それは……どういう、こと? ウィルが騎士を目指したのはーー」
「あの村から出るためだ」
ガツンと頭を殴られた感覚にセシリアは襲われた。言葉は理解できるのに、感情が追いつかない。
ウィルだってセシリアが戸惑っているとわかっているはずだ。それでも、言葉を止めてはくれなかった。いつもとは比べられないくらい饒舌である。
「孤児でしかない自分から抜け出したかった。そのために騎士として実力を認められることは、手っ取り早かったんだ」
セシリアは言葉を失う。
まさか現状に不満があったから騎士を目指したなんて、誰が思うだろうか。
小さな村だったけれど、皆で協力して生きていくような温かい村だった。ウィルだって、分かりづらいが、それなりに楽しんでいると勝手に思っていた。
そう、勝手にセシリアは思い込んでいたのだ。理由なんてわかりきっている。ウィルと過ごす時間が楽しかったからだ。
淡々としたウィルの口調が、セシリアを混乱させる。
「だ、だって、あんなこと言われたら腹が立つでしょう? 好き勝手なことばかり言ってーー」
「別に言わせておけばいい」
セシリアの眉にぐっと力が入る。不満を隠しもしないセシリアの姿に、ウィルは小さく息を吐き出した。
しばしの沈黙が二人の間に流れる。その間に、男たちの足音は遠ざかっていった。
ウィルは気配が感じられなくなってから、セシリアの腕を掴む手を離す。解放されたセシリアは、僅かに痛む腕をそっとさすった。
「……あいつらに文句を言いに行ったら隠れた意味がないだろうが」
「それは、そうだけど……」
今だに納得していないセシリアを黙って見つめていたウィルは、すっと音もなく立ち上がる。ふわっと風が吹き、黒い髪がウィルの表情を隠した。
「それに、あいつらが言ってることは、あながち間違いじゃないしな」
「ーーえ?」
セシリアは座り込んだ体勢のまま顔を上げた。
屋敷から漏れた明かりが、凛としたウィルの立ち姿を浮かび上がらせる。白い騎士服がやけにはっきり見えた。
「それは……どういう、こと? ウィルが騎士を目指したのはーー」
「あの村から出るためだ」
ガツンと頭を殴られた感覚にセシリアは襲われた。言葉は理解できるのに、感情が追いつかない。
ウィルだってセシリアが戸惑っているとわかっているはずだ。それでも、言葉を止めてはくれなかった。いつもとは比べられないくらい饒舌である。
「孤児でしかない自分から抜け出したかった。そのために騎士として実力を認められることは、手っ取り早かったんだ」
セシリアは言葉を失う。
まさか現状に不満があったから騎士を目指したなんて、誰が思うだろうか。
小さな村だったけれど、皆で協力して生きていくような温かい村だった。ウィルだって、分かりづらいが、それなりに楽しんでいると勝手に思っていた。
そう、勝手にセシリアは思い込んでいたのだ。理由なんてわかりきっている。ウィルと過ごす時間が楽しかったからだ。