英雄は愛のしらべをご所望である
セシリアが見た夢は、ちょうどセシリアが七歳頃の出来事だ。やっとハープで止まることなく唄を一曲弾けるようになったくらい。

まだ大好きな人に「好きだ」と素直に口にできる年齢だった。


「あの唄を歌っていたのは二、三年くらいだったなぁ」


案外長い、とセシリアは幼い頃の自分に呆れる。
もしかしたら、ウィルが「変な唄」とか「歌詞のセンスがない」だとか文句は言うけれど、『止めろ』とは一言も口にしなかったから歌い続けていたのもあったかもしれない。

後にも先にもセシリアが自分で作ったのはウィルの唄だけだった。


「にしても、今思うとウィルが言う通り、歌詞が酷い」


見たまま、思ったままを口ずさんだようにしか思えない。
セシリアは恥ずかしさのあまり手で顔を覆い、力なくベッド脇に腰を下ろした。

あの頃のセシリアは本当に毎日が楽しくて幸せだった。
ウィルが村を出るまで、いや、昨夜まで、ウィルも楽しかっただろうと思っていた。疑ってなどいなかった。

セシリアの記憶の中で生きるウィルは大人びていて、優しくて、少し意地悪なところもあって、本が好きで、喧嘩も強くて、孤児院のみんなを大切にしている、そんな少年だ。

だけど、それだけではなかったのだ。
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