英雄は愛のしらべをご所望である
伯爵家の裏庭で聞かされたウィルの告白はセシリアにとって衝撃の連続だった。もはや驚きが追いつかないほどである。

だが、なによりセシリアの心に突き刺さったのは、ウィルの口にした『セシリアは悪くない。これは俺の問題だ』という言葉だ。

その言葉を聞いた時、セシリアは『お前は関係ない』と切り捨てられた気がしてショックだった。けれど、改めて考えてみると、その通りだなぁ、と悲しいことに納得もしているのだ。

決して自分は何も悪くないと思っている訳ではない。
セシリアがウィルに対し、無神経なことをたくさん言ってきたのは確かである。

セシリアには優しくて大好きな両親がいたし、何もない小さな村ではあるけれど明日の食べ物に困るほど苦しい生活を送ってもいない。友達もいて、大好きなウィルも側にいた。ハープという好きなことも見つけた。

恵まれていたと素直に思うのだ。そんな環境で育った娘の放つ言葉がどれだけ甘ったれているか。考えるだけで、頭を抱えたくなる。

だから、セシリアがどんな慰めの言葉をかけても、孤児であるという現実は変わらないし、ウィルに響くこともないだろう。足掻けば足掻くほどウィルを傷つけてしまうことだってある。


「……私にできることはないってことね」


まさしく、これはウィルの問題なのだ。他者が口出しして解決するような簡単なものではない。

セシリアは膝を抱え頭を埋めた。口にしてしまうと、改めて己の無力さが突き刺さってくる。
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