英雄は愛のしらべをご所望である
唖然とした表情を浮かべる自分の藤色の瞳と目が合う。鏡越しの自分を見て、セシリアはひどく間抜けに思えた。


「私にできること……」


それは幼い頃には自然としていたことであり、いつしか恥ずかしさから表に出さなくなったことでもある。


セシリアはウィルの素晴らしいところを知っている。意地悪なところも、変な癖も、そして、苦しみ悩んでいたことも。

ウィルはウィルだ。
孤児だという視点でウィルを見たことなんて一度もない。いや、孤児院で出会った全ての子供たちも同様で、セシリアにとっては大切な人たちだ。

照れ臭くてそんなことを口にしなくなってしまったけれど、その思いは変わっていない。

それならば、この想いを変えることなく持ち続け、孤児でも、黒き英雄の再来でもなく『ただのウィル』として彼と接していけばいいのではないか。
ウィルが隠したいと思う過去を知っているセシリアだからこそできることではないか。

他者に認めてもらう。
それは、自分を肯定する上でとても重要なことである。

これでウィルの抱える悩みが全て解決するとはセシリアも思っていない。
けれど、小さなキッカケでもいい。セシリアがウィルにできることがあるならば、してあげたいとセシリアは心に決めた。
< 53 / 133 >

この作品をシェア

pagetop