英雄は愛のしらべをご所望である
「お飲物がお決まりでしたらお伺いいたします」


セシリアは周りからの視線に気づかぬふりをして、二人の前にメニューを開く。シルバは決めていたのか、メニューを見てすぐに指で指し示した。


「じゃあ、私はこの赤ワインを。ウィルはどうする?」


シルバの問いにウィルは答えない。微妙な沈黙が三人の間に流れた。

シルバは申し訳なさそうに眉を下げ、セシリアを見たが、セシリアは堪えきれず「ふふふ……」と小さく笑いをこぼし、気にすることはない、とシルバに笑みを返す。


「では、お先にシルバ様のお飲み物をご用意いたしますね。ウィル、様はごゆっくりお考えくださいませ」
「え? あ、ああ。悪い」


メニューからセシリアへと視線を移したウィルが、僅かに眉尻を下げる。
そんなウィルを見て、セシリアは自然と目を細めた。


「では、失礼いたします」


ゆっくりとした動作で頭を下げ、二人の座るテーブルからバックヤードに下がったセシリアは、細く長く息を吐き出すと、壁に寄りかかり、ずるずるとその場に座り込んだ。

ドクンドクンと煩いくらいに高鳴る鼓動が、なかなか治まってくれない。
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