英雄は愛のしらべをご所望である
昔とは違う帰り道
闇夜に浮かぶ淡い外灯の光と道の両端に並ぶ店の明かりが長い影を作り出す。
道のあちこちには家路を急ぐ者や店を物色する者、すでに酒を楽しみ陽気な足取りの者など、様々な人間がおり、セシリアは二、三歩前を歩くウィルを見失わないよう懸命に足を動かした。
再会した際にも感じたことだが、ウィルは会わない間に青年から大人の男性へと成長している。
記憶よりも声は低くなり、整っていて女性に間違えられることもあった顔つきは精悍なものへと変わり、背や手足も驚くほど伸びた。
セシリアがウィルを追いかけるようにして歩くというスタイルは、昔からだ。
歩幅の違いはもちろん、ウィルがセシリアのために速度を落とす理由はなく、セシリアが勝手についていっていたということもあるだろう。
セシリアにしてみれば、好きな男の子をひたすら追いかけているだけだったのだが、親分と子分、兄と妹……そんな関係だと周囲は理解し、納得していた。
そのせいだろうか。セシリアは現在の状況に不満も疑問も抱いてはいなかった。身体に染み付いた慣れともいえる。
もはや少女という括りでは扱えない、端から見れば妙齢な女性が男を追っている様は何とも言いがたいものがあるが、セシリアはあまり気にしておらず、それどころか、この状況を少し楽しんですらいた。
だから、突然ウィルが足を止め、振り返るなんて考えもしていなかったのだ。