英雄は愛のしらべをご所望である
「それだけじゃない。彼女は美しい白銀の髪だったとか。セシリアさんもとても美しい髪色をしているよね」
「あ、ありがとうございます。私の髪は完璧な白銀とまでは言えないですけど、暗がりならそう見えるかもしれません」
「ここまで揃うと偶然とは思えないなぁ。とても凄いことだよね」
白い肌を上気させ、僅かにテーブルから身を乗り出したセシリアは、いつの間にか完全にシルバの話に夢中になっていた。
黒き英雄の伝説は大好きだが、セシリアの好きのベクトルは国の歴史としてというよりも一人の人物の物語としてに向いている。
歌い手としてはそれでいいのかもしれないが、いざそれを他者に話すとなると少し躊躇してしまうのは、それだけセシリアが大人になった証拠でもあった。
けれど、シルバにはそんな心配が必要ないようだ。夢見がちとも言われないし、いい大人が恋物語として歴史を見ているのかと思われているようにも感じない。
それどころか、セシリアとの共通点まで探して話を盛り上げてくれさえした。
なんだか楽しくて、もっと話したいという感情がセシリアの心を占めていく。
「シルバさん! 他にもご存知なことはありますか?」
「そうだね。黒き英雄に関しては、結構詳しいと思うよ」
「うわぁあ! 聞かせてください!」
キラキラと目を輝かせ、シルバに詰め寄るセシリア。少女のようなその姿にシルバは目を細めた。
「可愛いね、セシリアさんは」
「ふぇ!?」
セシリアの口から変な声が漏れ出る。
セシリアの反応にシルバは堪らず、くくくっ、と小さな笑い声をこぼした。