クールな王太子の新妻への溺愛誓約

「……ごめんなさい。夢に見たことがあるというだけなのですが……」


レオンは表情を崩して優しい笑みを浮かべる。


「マリアンヌが謝ることではないだろう。無理して思い出す必要はない」


レオンはいつも気づかってそう言ってくれるが、マリアンヌには多少なりとも焦りがあった。婚礼の儀までに本当の自分に戻れたらどれだけいいだろう。

クレアの時の記憶を取り戻すということは、両親を亡くした忌まわしい過去まで蘇ることになる。それでも忘れ去ったままではいたくない。
火傷を負った時の痛い思い出も、生みの親との温かい思い出も、レオンとの輝かしい思い出も。すべてが今の自分につながっているものだから。

思いつめたような顔をしているマリアンヌの手をレオンが不意に取った。


「少し歩こう」


そう言われ歩き出す。すぐうしろを着いてこようとしたマートをレオンは引き留めた。


「遠くまで行くつもりはない。マートはそこで待機していてくれ」

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