クールな王太子の新妻への溺愛誓約

クレアの記憶が正しければ、ベティの親は五十代後半。まもなく六十歳に差し掛かる頃だろう。

若くして夫に先立たれ、ベティに子供はいない。家族といえば、両親のほかにはいないのだ。そのそばにいてあげたいというベティの気持ちもわかる。

だが寝耳に水だったクレアは、すぐに快諾できる心境ではなかった。ひとりきりになってしまうという思いが、まずよぎったせいだ。


「いやよ、ベティ。そんなことを言わないで」


振り返り、思わずベティにすがりつく。
その手にベティは自分の手を優しく重ねた。


「クレア様にはレオン殿下がいらっしゃいます。あのお方がおそばにいれば、なにも不安になる必要はございません」

「でも――」

「クレア様、あなたは数年後には国王陛下となられるレオン殿下のお妃です。そのようなお方が弱気になってはいけません。レオン殿下と共に、このフィアーコを背負って立つのですから。私ひとりがいないことくらいで心が乱されてはなりませぬ」


ベティは柔らかな口調の中に強さを秘め、クレアを諭すように言った。

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