クールな王太子の新妻への溺愛誓約

◇◇◇

そんなある夜のこと。
ベティが自室へ去り、マリアンヌはなんとはなしに窓の外へ目を向けた。見上げた空には満ちるまであともう少しの月が、静かな光をたたえている。すると一瞬、マリアンヌの視界の隅でなにかがきらりと光った。

(なにかしら……?)

それを追って目線を下げていくと、『ヒュン!』と空を切る音も聞こえてくる。
柔らかい月の光の中マリアンヌが目を凝らすと、視線の先にはふたりの人影があった。

(……レオン様だわ)

ふたりのうちのひとりがレオンだったのだ。

剣術の訓練なのか、刃先が激しくぶつかり合う音が空高く響く。
レオンはいったん相手から離れ、隙を突いて再び間合いを詰める。あまりにも俊敏な動きは、剣術に詳しくないマリアンヌでも目を見張ってしまった。
ピエトーネでもこういった訓練を見学することは多々あったが、レオンの剣さばきほど華麗なものは見たことない。

月の明かりだけが頼りなのに、マリアンヌが怯むほどにレオンは真剣な顔をしているのが見えた。おそらく近くにある噴水のせいだろう。月明りが噴水の白い台座に反射し、視界を良くしていた。
レオンの涼しげな目もとは、鋭い剣にも負けない凛とした色を滲ませている。

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