クールな王太子の新妻への溺愛誓約

ヴァネッサに聞いたところによると、幼少期に数日間に亘って高熱が続き、回復した時にどういうわけかそれ以前の記憶を失ってしまったと。当然ながらこの火傷のことも覚えていない。


「……そうでございますね……」


ベティは、なぜかうろたえるように目を瞬かせた。


「ベティはその場にいなかったの?」


マリアンヌが生まれた時から一緒だったのだ。常々一緒にいた侍女ならば見ていただろう。幼少期ならばなおさらだ。


「あ、いえ、おそばにおりました。……そうですね、とても大変な事態でございましたよ。マリアンヌ様も火が点いたようにお泣きになって」


ベティの瞳が揺れたように見えた。どこか慌てている。


「ささ、早いところ上がってお支度をいたしましょう。殿下をお待たせしてはいけませんから」

都合の悪い話から逃げるようにさっさと切り上げ、ベティはマリアンヌの体に湯をかけた。

(ベティったら、どうしたのかしら?)

マリアンヌはそんなベティを見て、どことなく不可解な気持ちに包まれた。

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