クールな王太子の新妻への溺愛誓約

◇◇◇

遠くからかすかになにかの音が聞こえる。それに導かれるように瞼を持ち上げる。
部屋の中はまだ暗闇に包まれていた。窓から差し込む淡い光が、部屋の中に長く伸びている。

(この音は……?)

それに引き寄せられるように、マリアンヌはベッドから降り立った。
部屋のドアを開けると、音は左手の方向から聞こえてくるようだ。

今いるところは東館。この先には舞踏会などが催される大ホールがある。そこから聞こえてくるのかもしれないと、マリアンヌはなんとなく思った。
ここから四百メートルはありそうなホールからの音が聞こえるのは、夜の静寂のせいなのか。マリアンヌはナイトウエアにガウンを羽織り、冷たい回廊を歩いた。

音が大きくなるにつれ、それがパイプオルガンのものだとわかる。
こんな夜更けにいったい誰が弾いているのだろうと興味が湧いた。

ギィという小さな音を立てながらホールのドアを開ける。やはり音はこのホールが出所だった。薄明りの中、パイプオルガンの前に人影が見える。
耳に心地のいい音階。優しい曲調。目を閉じて聞くと、胸にじんわりとしみ込んでくる。

(この曲、なんだか懐かしい感じがするわ……)

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