臆病なきみはうそをつく
『僕の右は不自由です』
4月の始業式のあとのホームルーム。
クラスでの自己紹介で、冬室くんはそう言った。
……彼は中学時代病気になり、命にかかわるものだったが助かった。
でも後遺症として、右目と右耳が不自由になり、ほとんど見えないし聞こえないらしい。
ただ左側は問題ないので、日常生活に支障はあまりないという。
だけど、ちょっとした……本当にちょっとしたこと……会話が聞き取りづらいとか、右側がぶつかりやすいとか、右から声をかけられても気づきにくいとか……
そんなささいなことが、学校生活で度々冬室くんの動きをぎこちなくしていて、クラスメイトも少しやりづらそうにしているのが現状だ。
(……まあ、私には関係ないけど)
冬室くんに限らず、クラスメイトとほとんど関わらない私にとっては、今朝の接触も本当にまれなこと。
彼の不自由さを知ってはいても、実際にそれで私に何かがあるわけではなかった。
冷たいだろうか?
いや、みんなそんなものだろう。
むしろ変に同情を見せる方が不快じゃないかな。
なんだか嘘くさくて。
(……それよりも)
自分の席についた私は、スマホを取りだし、アプリを開く。
朝も使っていた、小説の投稿サイトのアプリだ。
パソコンからサイトに接続して投稿する方法もあるが、アプリを使うのが断然手軽なので、私はいつもスマホで小説を書いている。