臆病なきみはうそをつく
「………あの、冬室くん、……バスケ部だったの?」

「ああ、うん。中学のときね。病気になってからはできなくなったんだけど……」

「………」

「病気が治っても、もうあのときみたいにプレーできないのはわかっているんだけれど……。それでも、やっぱりやりたくなって…」

「冬室くん……」

「だめだよな、昔とは違うんだから」


冬室くんは笑顔でそう言うけれど

どこか寂しそうで

そして、それは彼がときどき見せるもので


……もしかして

冬室くんはハッキリ口にはしないけれど、いつもこうして不自由と戦っているのだろうか。


私の中に、ある気持ちが沸き上がる。

冬室くんの寂しそうな顔がつらい。

笑ってほしいよ。 

いつもみたいな優しい顔で。


なんて、思うのは同情?

私はいい人ぶっているだけ?

もし、そうだとしても

笑ってほしい気持ちは嘘じゃない。


「……あの、冬室くん」


気づけば私は冬室くんを見上げて


「よければ……わ、私に……私にバスケを教えてくれる?」


そう言っていた。




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