わたしがまだ姫と呼ばれていたころ
「痛ーい」
横座りのような恰好で座り、姫は痛めた左の足首に左手を当てた。痛くてうつむいてしまう。
その瞬間だった。男にあごを、手でクイッと持ち上げられた。
「姫は、どんなときも、顔を上げてろよ」
そう言う男の澄んだ瞳が、とても眩しくて思わず目を瞑ってしまった。
唇に温かくやわらかい感触だけがあった。
目を開けて姫は男に言った。
「そうね、どんなときも、顔を上げていなきゃね」
「お、珍しく『命令しないで』って言わないんだな」
「まぁ、たまにはね」
姫は苦笑いした。