わたしがまだ姫と呼ばれていたころ
「ようこそ、お待ちしていました。さぁ、どうぞ」
少し甘めの低音ボイスが、玄関の吹き抜けに吸い込まれてゆく。
案内された部屋は、全体に白っぽい印象で、大きな窓から差し込む光が眩しい。
フランキンセンスの香りが漂っている。
「先生、いつもこの香りを?」
「いいえ」
「今日の気分で?」
「ええ。あなたに合わせてね」
「どうして?」
「どうして、あなたの好きな香りがわかったのかって?」
「ええ」