わたしがまだ姫と呼ばれていたころ
キョトンとしている姫の質問に答える代わりに、先生は優しく微笑むと姫にイスに掛けるように勧めた。
ガラスの丸テーブルをはさんで、こちら側と向こう側にイスが一脚ずつ。その向こう側には、施術用のベッドが見えた。
他には何もない、シンプルな部屋だ。ヒーリングサロンでよく流れているような音楽も流れていないし、時計もない。
「さぁ、どうぞ。遠慮しないで」
無機質な部屋が、先生の声の温かさを際立たせている。
「先生、すごく楽しみにしてたんです。ほんと、もう待ちきれないくらい、待って待って……」
「わかっていましたよ」
「何がですか」
「今日、あなたがいらっしゃること」
「だって、それは予約してるから」
「そういうことでなくて」
「え?」
「まぁ、それは追々ね。さぁ、掛けて」