わたしがまだ姫と呼ばれていたころ
「月がきれいですね」
が、"I love you." を意味することは百も承知だ。
理系歌人のような、緻密に計算された言葉選びも新鮮だ。
シャイな感じも漂って、姫は危うく堕ちそうになった。
だが、最後がイケナイ。
三日月が沈む明日の朝までそばにいるよ、だって?
三日の三日月は、夕方に沈んでしまうのよ。
弦の向きが反対でしょ?
明け方まで残っている月を、三日月と呼ぶセンスに思わず引いてしまう。
こうして、姫の淡い思いは一気に萎んだ。
三日月も、あっという間に海へと沈んでいった。