わたしがまだ姫と呼ばれていたころ


「月がきれいですね」
が、"I love you." を意味することは百も承知だ。

理系歌人のような、緻密に計算された言葉選びも新鮮だ。
シャイな感じも漂って、姫は危うく堕ちそうになった。


だが、最後がイケナイ。

三日月が沈む明日の朝までそばにいるよ、だって?

三日の三日月は、夕方に沈んでしまうのよ。
弦の向きが反対でしょ?
明け方まで残っている月を、三日月と呼ぶセンスに思わず引いてしまう。


こうして、姫の淡い思いは一気に萎んだ。
三日月も、あっという間に海へと沈んでいった。



< 2 / 82 >

この作品をシェア

pagetop