わたしがまだ姫と呼ばれていたころ
「今日、何時に上がるの?」
隣の席にいつの間にか座っていた、同期の男が姫に尋ねた。
「三時よ」
「早いんだな」
「だって、六時半からだもん、今日」
「着付けとか、どうしたの」
「ホテルの美容室でしてもらった」
「自分じゃ、やっぱ、無理だよな」
「あったりまえじゃん」
「今日、特別可愛いな、お前」
「お前って言わないで」
「綺麗だよ」
「ガラにもないこと、言わないの」
「惚れそう」
「何、バカなこと言ってんの」
「ほんとさ」
仕事中、お屠蘇は飲んでいない。なのに、なんでこんなに頬が熱いんだろう。