わたしがまだ姫と呼ばれていたころ
「お疲れさまです。お先に失礼します」
引き続き、台に就いている先輩に軽く会釈する。
新しい人には「よろしくお願いします。お先に失礼します」と言い、そそくさとオペ室をあとにした。
電話が途切れないのが幸いだった。
部屋のガラス越しに、先輩が何か言いたそうな顔をしているのが見えたが、無視した。
「姫、オツカレ」
「お待たせ。もうちょっとで、先輩に怒られるとこだった」
「やっぱ、まずかった?」
「うん、夕方の忙しいときだもん。でも、電話が全然途切れなくてさ、結局、先輩と話してないから大丈夫。明日、わたし休みだし、当分先輩と一緒のシフトになることないから」
「そっか、良かったね」